契約不適合責任の期間

売買契約を締結して引渡しを受けたマンションが、種類・品質に関して「契約の内容に適合しない」場合、履行の追完請求(民法562条)、代金の減額請求(民法563条)、損害賠償請求(民法564条・民法415条)、契約解除(民法564条・民法541条・民法542条)ができます(契約不適合による担保責任)。

もっとも、契約不適合責任を請求できる期間には制限があります。

なお、改正民法の施行日前(令和2年3月31日まで)に締結された売買契約については、契約不適合責任ではなく、瑕疵担保責任(改正前民法570条)が適用されます(民法附則34条1項)。

民法の規定

請求権を保存する方法

売主が種類・品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合でも、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、 契約不適合責任を追及できなくなります(民法566条3項本文)。

「買主がその不適合を知った時から1年」は、除斥期間です。

除斥期間とは権利について法律が定めた存続期間をいい、権利を行使しないままその期間が経過すると権利が当然に消滅します。

除斥期間は時効と似た制度ですが、援用(民法145条)、更新・完成猶予(民法147条~161条)の制度がないなどの違いがあります。

もっとも、売主が引渡しの時にその不適合を知っていたり、重大な過失によって知らなかった場合、契約不適合責任を追及できます(民法566条3項但書)。

買主が売主にする「通知」は、単に契約との不適合がある旨を抽象的に伝えるのみでは足りず、細目にわたるまでの必要はないものの、不適合の内容を把握することが可能な程度に、不適合の種類・範囲を伝える必要があると考えられます。

なお、改正前の民法では、「損害賠償請求権を保存するには、…売主の担保責任を問う意思を裁判外で明確に告げることをもって足り、裁判上の権利行使をするまでの必要はないと解するのが相当である。…1年の期間経過をもって、直ちに損害賠償請求権が消滅したものということはできないが、右損害賠償請求権を保存するには、少なくとも、売主に対し、具体的に瑕疵の内容とそれに基づく損害賠償請求をする旨を表明し、請求する損害額の算定の根拠を示すなどして、売主の担保責任を問う意思を明確に告げる必要がある。」(最高裁平成4年10月20日)とされていましたが、改正により請求する損害額の算定の根拠を示すことなどは必要なくなり、買主がしなければならない通知の負担が軽減されました。

この点、瑕疵担保責任(改正前民法570条)の期間を引渡しを受けた日から2年間に制限する特約がある場合に、買主が引渡しを受けた日から2年以内に「リビング腰窓の漏水」を指摘しても、漏水原因及び漏水箇所が異なる「和室腰窓の漏水、洋室腰窓の漏水」についての瑕疵担保による損害賠償請求権が保存されているとはいえないとした裁判例があります(東京地裁平成22年5月27日)。

<東京地裁平成22年5月27日>

本件売買契約書の20条は、本件住戸の瑕疵担保責任の除斥期間を本件住戸の引渡日から2年間と定めているところ、原告X1は、本件住戸の引渡しを受けた平成10年3月27日から2年間に被告Y1に対して漏水を指摘したのはリビング腰窓の漏水のみであるところ、…リビング腰窓の漏水は、シーリングの施工不良を原因とするものであり、リビング腰窓の漏水についての修補工事後は、当該箇所から漏水は生じておらず、本件漏水は、サッシ周りの防水措置の施工不良によるものでないと考えられることが認められ、これによれば、リビング腰窓の漏水とは、漏水原因及び漏水箇所を異にしているということができるので、原告X1がリビング腰窓の漏水を被告Y1に指摘したことで本件漏水についての原告X1の被告Y1に対する損害賠償請求権が、保存されたということができず、上記請求権は発生した可能性があるが、その発生が認められたとしても、除斥期間の経過により消滅したというべきである。
この点につき、原告X1は、被告Y1に対し、本件アフターサービス規準に基づくアフターサービス期間内である平成12年6月に和室腰窓の漏水を指摘して修補を求め、また、平成15年8月ころに洋室腰窓の漏水について修補を求めているのであり、これにより、原告X1の被告Y1に対する瑕疵担保による損害賠償請求権は保存されていると主張する。
しかし、本件売買契約書の構成上、アフターサービスに係る21条が、瑕疵担保責任に係る20条とは別に規定されており、両規定が相互に関連するものと解釈することは困難であって、また、一般的に、アフターサービスとは、売主が認定した事項について無償で補修することを内容とするものであり、本件売買契約におけるアフターサービスも、被告Y1が無償で補修することを内容としていることに照らせば、本件売買契約書の21条のアフターサービス規定は、瑕疵担保責任とは別に、被告Y1が所定の期間内に所定のアフターサービスを行う義務を規定したものであり、瑕疵担保責任に係る損害賠償請求権の除斥期間が、アフターサービス期間まで延期されているものということはできないというべきである。

保存された権利を行使できる期間

契約不適合を知った時から1年以内に契約不適合の通知をすれば、権利を保存できますが(民法566条3項本文)、買主はいつまでも保存された権利を行使できるわけではありません。

この点、「買主が行使し得る権利の内容及びその消長については、民法の一般原則の定めるところによるべきである。」(前掲最高裁平成4年10月20日)とされており、通知により保存された権利は民法の消滅時効の期間の経過により消滅します。

そして、民法の消滅時効の期間は、「権利を行使することができることを知った時」から5年又は「権利を行使することができる時」から10年とされています(民法166条1項)。

買主は、契約不適合を知った時に「権利を行使することができることを知った」といえ、契約不適合を知った時から5年を経過すると、通知により保存された権利は時効により消滅すると考えられます。

不適合を知らずに引渡しから10年が経過

瑕疵担保責任(改正前民法570条)については、「瑕疵担保による損害賠償請求権には消滅時効の規定の適用があり、この消滅時効は、買主が売買の目的物の引渡しを受けた時から進行する」とされていました(最高裁平成13年11月27日)。

そのため、契約不適合責任についても、消滅時効の規定の適用があり、買主が目的物の引渡しを受けた時から10年が経過すると時効により消滅する(民法166条1項2号)と考えられます。

<最高裁平成13年11月27日>

⑴ 買主の売主に対する瑕疵担保による損害賠償請求権は、売買契約に基づき法律上生ずる金銭支払請求権であって、これが民法167条1項にいう「債権」に当たることは明らかである。
この損害賠償請求権については、買主が事実を知った日から1年という除斥期間の定めがあるが(同法570条、566条3項)、これは法律関係の早期安定のために買主が権利を行使すべき期間を特に限定したものであるから、この除斥期間の定めがあることをもって、瑕疵担保による損害賠償請求権につき同法167条1項の適用が排除されると解することはできない。
さらに、買主が売買の目的物の引渡しを受けた後であれば、遅くとも通常の消滅時効期間の満了までの間に瑕疵を発見して損害賠償請求権を行使することを買主に期待しても不合理でないと解されるのに対し、瑕疵担保による損害賠償請求権に消滅時効の規定の適用がないとすると、買主が瑕疵に気付かない限り、買主の権利が永久に存続することになるが、これは売主に過大な負担を課するものであって、適当といえない。
したがって、瑕疵担保による損害賠償請求権には消滅時効の規定の適用があり、この消滅時効は、買主が売買の目的物の引渡しを受けた時から進行すると解するのが相当である。

⑵ 本件においては、被上告人が上告人に対し瑕疵担保による損害賠償を請求したのが本件宅地の引渡しを受けた日から21年余りを経過した後であったというのであるから、被上告人の損害賠償請求権については消滅時効期間が経過しているというべきである。

期間を制限する特約

契約不適合責任の内容は、特約によって変更することができます(民法572条参照)。

もっとも、宅地建物取引業者が自ら売主となる宅地・建物の売買契約において、その目的物が契約の内容に適合しない場合の契約不適合責任の期間については、目的物の引渡しの日から2年以上となる特約をする場合を除き、民法566条3項本文の規定(不適合を知った時から1年)より買主に不利となる特約はできません(宅建業法40条1項)。

そして、これに反する特約は無効となります(宅建業法40条2項)。

そこで、多くのマンションの売買契約では、契約不適合責任の期間をマンションの引渡しから2年に制限する特約があります。

契約不適合責任の期間をマンションの引渡しから2年に制限する特約がある場合、買主がマンションの引渡しから3年後に契約不適合を知り、それから1年以内(引渡しから4年以内)に不適合を通知したとしても、契約不適合責任を追及できなくなります。

品確法の規定

新築住宅の売買契約の場合、「住宅の構造耐力上主要な部分等の瑕疵」について、売主は、買主に引き渡した時から10年間、担保責任(民法562条~564条・民法415条・民法541条・民法542条)を負います(品確法95条1項)。

そして、この規定に反する特約で買主に不利なものは、無効となります(品確法95条2項)。

なお、改正民法では「瑕疵」という文言は削除され、「契約の内容に適合しない」という文言に置き換えられましたが、品確法では「瑕疵」という文言は削除されず、品確法における『「瑕疵」とは、種類又は品質に関して契約の内容に適合しない状態』であると定義されました(品確法2条5項)。

「住宅の構造耐力上主要な部分等の瑕疵」とは、住宅のうち構造耐力上主要な部分又は雨水の浸入を防止する部分として政令で定めるもの(構造耐力又は雨水の浸入に影響のないものを除く)をいいます(品確法94条1項)。

具体的には、次のようなものです(品確法施行令5条)。

  1. 構造耐力上主要な部分として政令で定めるもの(1項)
    住宅の基礎、基礎ぐい、壁、柱、小屋組、土台、斜材(筋かい、方づえ、火打材その他これらに類するもの)、床版、屋根版又は横架材(はり、けたその他これらに類するもの)で、当該住宅の自重若しくは積載荷重、積雪、風圧、土圧若しくは水圧又は地震その他の震動若しくは衝撃を支えるもの
  2. 雨水の浸入を防止する部分として政令で定めるもの(2項)
    ① 住宅の屋根若しくは外壁又はこれらの開口部に設ける戸、わくその他の建具(1号)
    ② 雨水を排除するため住宅に設ける排水管のうち、当該住宅の屋根若しくは外壁の内部又は屋内にある部分(2号)

したがって、マンションに構造耐力上主要な部分などの瑕疵がある場合、契約不適合による担保責任の期間をマンションの引渡しから2年に制限する特約があったとしても、その特約は無効となり、売主は引渡しから10年間は担保責任を負います。

なお、品確法95条1項の場合、民法566条は、「売主が瑕疵がある目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその瑕疵を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その瑕疵を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその瑕疵を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。」と読み替えられます(品確法95条3項)。