マンションが共有の場合、管理組合は、共有者のひとりに対して管理費等の全額を請求できるのでしょうか。
例えば、AとBが1/2ずつの持分でマンションを共有している場合、管理組合は、AとBそれぞれに対して管理費等の1/2しか請求できないのか、AとBそれぞれに対して管理費等の全額を請求できるのかが、AとBが負っている管理費等を支払う債務の性質に関連して問題となります。
この点、AとBが管理組合に対して管理費等を支払う債務が分割債務(民法427条)だとすると管理組合はAとBそれぞれに対して管理費等の1/2しか請求できないことになるのに対し、不可分債務(民法430条)だとすると管理組合はAとBそれぞれに対して管理費等の全額を請求できることになります。
不可分債務に該当するのは、「債務の目的がその性質上不可分である場合」です(民法430条)。
不動産を共同相続して共有になったときの共有物管理費支払債務(大審院昭和7年6月8日)や賃借権を共同相続したときの賃料支払債務(大審院大正11年11月24日)は、給付の内容自体は物理的に可分な金銭であるものの、共有物や賃借物の使用収益という不可分な利益の対価であることから、債務の目的がその性質上不可分であることから、不可分債務とされています。
これらと同様に、管理費等の支払債務も、マンションの共用部分の維持管理がされるという不可分な利益の対価であり、「債務の目的がその性質上不可分である場合」に該当すると考えられます(東京地裁平成18年7月21日、東京高裁平成20年5月28日)。
したがって、管理組合はAとBそれぞれに対して管理費等の全額を請求できることになります。
<東京地裁平成18年7月21日>
本件マンションの管理規約は、敷地及び共用部分等を区分所有者の共有とし、各区分所有者の共有持分は、その所有する専有部分の床面積の割合によるとし、本件マンションの区分所有者(組合員)は、敷地及び共用部分等の管理に要する経費に充てるため、管理費等を原告に納入しなければならないと定めているところ、このような規定からすれば、管理費等の債務は、1個の区分建物について1つの債務として成立するもので、1つの区分建物が共有であっても、その性質上不可分であるとみるのが相当である。
したがって、本件マンションの区分建物の共有持分権者は、原告に対し、各区分建物毎に当該区分建物の専有部分の床面積の割合により算定された管理費、修繕積立金を支払う義務がある。
<東京高裁平成20年5月28日>
区分所有法19条は、「各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取する。」と定める。
ここでいう「各共有者」とは、同法2条4項にいう「共用部分」(数個の専有部分に通じる廊下又は階段室等が典型である。以下「マンション共有部分」という。)を共有する区分所有者を指すのであり、同法11条1項ただし書の一部共用部分を除くと、区分所有者全員ということになる(同法11条1項本文)。
なお、区分所有者とは、区分所有権(専有部分を目的とする所有権)を有する者をいうものである(同法2条1項、2項)。
そして、区分所有法14条1項は、「各共有者の持分は、その有する専有部分の床面積の割合による。」と定める。
以上によると、区分所有法は、マンション共有部分を共有する区分所有者(区分所有権を有する者)は、その有する専有部分の床面積の割合によりマンション共有部分の負担を負うものとしている(なお、同法19条は、民法253条の特則であるところ、民法253条では、単純に、各共有者はその持分に応じて負担を負うと定めている。)。
このことからすると、区分所有権を単独で有してマンション共有部分を共有している場合ではなく、区分所有権を共有してマンション共有部分を共有している場合についても、区分所有権を共有している者は、全体として、その有する専有部分の床面積(なお、区分所有権を共有している者は、各自その専有部分全体を有し、全体につき使用収益をなし得るのである。)の割合により定まる管理費等の負担を負うというべきであり、区分所有権を共有している者ら相互の関係は、区分所有権を有するという一個の法律関係から発生するところの、一個の債務を共同して負担する関係(いわゆる多数当事者の債権債務関係)に立つものと解するのが相当である。
ただし、本件の管理費及び修繕積立金のような金銭債務については、これを持分割合で分割し得るので、このような債務を分割債務ととらえるか、不可分債務ととらえるかが次に問題となる。
この点については、区分所有者がマンション共有部分の管理費等の負担を負うのは、専有部分に通じる廊下、階段室等のマンション共有部分が、その有する専有部分の使用収益に不可欠なものであるということに由来するものと考えられるところ、区分所有権を共有する者は、廊下、階段室等のマンション共有部分の維持管理がされることによって共同不可分の利益(専有部分の使用収益が可能になること及びその価値の維持)を得ることができるのである。
そうすると、区分所有権を共有する者が負う管理費等の支払債務は、これを性質上の不可分債務ととらえるのが相当である(なお、大審院昭和7年6月8日判決…[不動産を共同相続して共有になったときの共有物管理費支払債務]、大審院大正11年11月24日判決[賃借権を共同相続したときの賃料支払債務]…等参照)。
控訴人は、管理費等の支払債務が専有部分を一つの単位とする不可分債務であると解すると、専有部分の共有持分を譲り受けた特定承継人は、譲り受けた共有持分の割合を超えた未払債務の履行責任を負わなければならなくなり、不測の損害を被ることになると主張するが、区分所有権を共有する者は、マンション共有部分の管理費等の支払債務を不可分的に負うと解する以上、区分所有権の持分を譲り受けた者が譲り受けた区分所有権の持分割合を超え、専有部分の床面積の割合による負担を負うのはやむを得ないことであり、これをもって上記解釈を左右することはできない(なお、区分所有権の共有者間での求償は可能である。)。