総会は、提出された議案の内容について審議して採決を行い、管理組合の意思決定を行う場です。
組合員が提出された議案の内容を十分に理解しなければ、適切な意思決定を行うことはできません。
そのためには、組合員が、議案の内容について質問し、役員から説明を受けることが必要です。
もっとも、総会の時間は限られているため、一部の組合員との質疑応答に時間をかければ、他の組合員との質疑応答の機会が奪われます。
また、総会の目的は最終的に採決を行って結論を出すことです。
したがって、議長が議事の整理・進行する権限の一環として、質問を制限し、また、審議が尽くされたと判断して採決を行うことができます。
説明義務
区分所有法には、「管理者は、集会において、毎年一回一定の時期に、その事務に関する報告をしなければならない。」という規定があります(43条)。
また、標準管理規約(単棟型)には、「理事長は、通常総会において、組合員に対し、前会計年度における管理組合の業務の執行に関する報告をしなければならない。」(38条3項)、「監事は、管理組合の業務の執行及び財産の状況を監査し、その結果を総会に報告しなければならない。」(41条1項)という規定があります。
もっとも、総会における組合員からの質問に対する役員の説明義務に関する規定はありません。
しかし、審議は、議案の提案者が提案理由等を説明し、質疑応答を経て採決するのが会議体の一般原則であることから、役員は組合員に対して質問の機会を与え、組合員の質問に回答する必要があります。
この点、株主総会の場合、取締役等の説明義務(会社法314条、会社法施行規則71条)が規定されており、管理組合の総会における説明の際にも参考になると考えられます。
具体的には、以下のような場合には、説明を拒否することができると考えられます。
- 総会の目的である事項に関しないものである場合(会社法314条但書参照)
- 組合員の共同の利益を著しく害する場合(会社法314条但書参照)
- 説明をするために調査をすることが必要である場合(会社法314条但書、会社法施行規則71条1号参照)
- 説明をすることにより管理組合その他の者の権利を侵害することとなる場合(会社法314条但書、会社法施行規則71条2号参照)
- 実質的に同一の事項について繰り返して説明を求める場合(会社法314条但書、会社法施行規則71条3号参照)
- その他説明をしないことにつき正当な理由がある場合(会社法314条但書、会社法施行規則71条4号参照)
会社法314条
取締役…は、株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合には、当該事項について必要な説明をしなければならない。
ただし、当該事項が株主総会の目的である事項に関しないものである場合、その説明をすることにより株主の共同の利益を著しく害する場合その他正当な理由がある場合として法務省令で定める場合は、この限りでない。
会社法施行規則71条
法第314条に規定する法務省令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
① 株主が説明を求めた事項について説明をするために調査をすることが必要である場合(次に掲げる場合を除く。)
イ 当該株主が株主総会の日より相当の期間前に当該事項を株式会社に対して通知した場合
ロ 当該事項について説明をするために必要な調査が著しく容易である場合
② 株主が説明を求めた事項について説明をすることにより株式会社その他の者(当該株主を除く。)の権利を侵害することとなる場合
③ 株主が当該株主総会において実質的に同一の事項について繰り返して説明を求める場合
④ 前3号に掲げる場合のほか、株主が説明を求めた事項について説明をしないことにつき正当な理由がある場合
説明内容
組合員からの質問に対しては、平均的な組合員が決議事項について合理的な理解及び判断を行える程度の説明が必要だと考えられます(東京地裁平成16年5月13日)。
<東京地裁平成16年5月13日>
【株主総会の事案】
本件各決議に関し、被告の取締役及び監査役が説明義務を尽くしたといえるか否かの問題は、本件株主総会における株主の質問に対して、取締役及び監査役が、本件各決議事項の実質的関連事項について、平均的な株主が決議事項について合理的な理解及び判断を行い得る程度の説明を本件株主総会で行ったと評価できるか否かに帰するというべきである。
そして、平均的な株主が決議事項について合理的な理解及び判断を行い得る程度の説明がなされたかどうかの判断に当たっては、質問事項が本件各決議事項の実質的関連事項に該当することを前提に、当該決議事項の内容、質問事項と当該決議事項との関連性の程度、質問がされるまでに行われた説明(事前質問状が提出された場合における一括回答など)の内容及び質問事項に対する説明の内容に加えて、質問株主が既に保有する知識ないしは判断資料の有無、内容等をも総合的に考慮して、審議全体の経過に照らし、平均的な株主が議決権行使の前提としての合理的な理解及び判断を行い得る状態に達しているか否かが検討されるべきである。
なお、前記のとおり、その場合に当該質問株主が平均的な株主よりも多くの知識ないしは判断資料を有していると認められるときには、そのことを前提として、説明義務の内容を判断することも許されると解すべきである。
なぜなら、株主が議決権行使の前提としての合理的な理解及び判断を行うために必要な説明を受け得ることを保障した説明義務の趣旨に照らし、既に質問株主が議決権行使の前提としての合理的な理解及び判断を行い得る状態に達していることが認められる場合には、それを前提に説明義務の内容を判断したとしても、前記説明義務を定めた法の趣旨に反することとはならないからである。
質疑応答の制限
総会の目的は最終的に採決を行って結論を出すことであり、質疑応答も結論を出すために必要な限度で認めれば足ります。
また、総会の時間は限られているため、一部の組合員との質疑応答に時間をかければ、他の組合員との質疑応答の機会が奪われます。
したがって、議長が議事の整理・進行する権限の一環として、組合員の質問や発言時間を制限したり、また、審議が尽くされたと判断して採決を行うことができます。
なお、議長が、決議事項について合理的な判断を行える程度の説明があったと考え、質問を打ち切ろうとする際に、質問を打ち切ることについても決議を得ておくことも考えられます。