区分所有者が管理費等を滞納したまま死亡した場合、区分所有者の相続人に対して管理費を請求することができます(民法896条本文)。

もっとも、共同相続の場合、管理組合は、相続人のひとりに対して管理費等の全額を請求できるのでしょうか。

例えば、相続人AとBの相続分が1/2ずつの場合、管理組合は、AとBそれぞれに対して管理費等の1/2しか請求できないのか、AとBそれぞれに対して管理費等の全額を請求できるのかが、AとBが負っている管理費等を支払う債務の性質に関連して問題となります。

この点、AとBが管理組合に対して管理費等を支払う債務が分割債務(民法427条)だとすると管理組合はAとBそれぞれに対して管理費等の1/2しか請求できないことになるのに対し、不可分債務(民法430条)だとすると管理組合はAとBそれぞれに対して管理費等の全額を請求できることになります。

不可分債務に該当するのは、「債務の目的がその性質上不可分である場合」です(民法430条)。

管理組合が管理費等の1/2しか請求できないのか、全額を請求できるのかについては、管理費等が相続開始前(区分所有者の死亡前)に発生したものかどうかにより結論が異なります。

相続開始前に発生した管理費等

相続開始前に発生した管理費等は、給付の内容自体が物理的に可分な金銭であり、相続人の分割債務になると考えられます(大審院大正9年12月22日、大審院昭和5年12月4日、昭和29年4月8日、昭和34年6月19日参照)。

したがって、管理組合はAとBそれぞれに対して管理費等の1/2しか請求できないことになります。

相続開始後に発生した管理費等

不動産を共同相続して共有になったときの共有物管理費支払債務(大審院昭和7年6月8日)や賃借権を共同相続したときの賃料支払債務(大審院大正11年11月24日)は、給付の内容自体は物理的に可分な金銭であるものの、共有物や賃借物の使用収益という不可分な利益の対価であり、債務の目的がその性質上不可分であることから、不可分債務とされています。

これらと同様に、相続開始後に発生した管理費等も、マンションの共用部分の維持管理がされるという不可分な利益の対価であり、「債務の目的がその性質上不可分である場合」に該当すると考えられます(東京地裁平成18年7月21日、東京高裁平成20年5月28日)。

東京地裁平成18年7月21日、東京高裁平成20年5月28日の詳細については、こちらのページをご覧ください。

したがって、管理組合はAとBそれぞれに対して管理費等の全額を請求できることになります。

なお、相続人が行方不明である場合や相続人がいない場合(相続人全員が相続放棄をした場合を含みます。)、家庭裁判所に不在者財産管理人や相続財産管理人の選任を申立て、相続人に代わって不在者や被相続人の財産から管理費等を回収する方法を検討する必要があります。