買主は、マンションの分譲業者に対しては売買契約に基づく担保責任として、追完請求(民法562条)、代金減額請求(民法563条)、損害賠償請求(民法564条・民法415条)、契約解除(民法564条・民法541条・民法542条)ができます。
もっとも、マンションの設計・施工業者との間では売買契約などの直接の契約関係がないため、マンションの設計・施工業者に対しては売買契約に基づく担保責任を追及できません。
しかし、マンションの設計・施工業者に対して不法行為に基づく損害賠償(民法709条)を請求できることもあります。
なお、マンションの分譲業者に対しても、不法行為に基づく損害賠償を請求できることもあります。
不法行為責任の要件
建物の建築に携わる設計者・施工者・工事監理者は、建物の建築に当たり、契約関係にない居住者を含む建物利用者・隣人・通行人などに対する関係でも、建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負っています。
そこで、設計者らが、建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を怠ったために建築された建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があり、居住者などの生命・身体・財産が侵害された場合には、設計者らは、特段の事情がない限り、これによって生じた損害について不法行為による賠償責任を負います(最高裁平成19年7月6日)。
「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」とは、居住者などの生命・身体・財産を危険にさらすことがないような安全性を損なう瑕疵をいいます。
そして、その瑕疵が、居住者などの生命・身体・財産に対する現実的な危険をもたらしている場合だけでなく、これを放置するといずれは居住者などの生命・身体・財産を危険にさらすことになる場合には、その瑕疵は、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当します(最高裁平成23年7月21日)。
<最高裁平成19年7月6日>
建物は、そこに居住する者、そこで働く者、そこを訪問する者等の様々な者によって利用されるとともに、当該建物の周辺には他の建物や道路等が存在しているから、建物は、これらの建物利用者や隣人、通行人等(以下、併せて「居住者等」という。)の生命、身体又は財産を危険にさらすことがないような安全性を備えていなければならず、このような安全性は、建物としての基本的な安全性というべきである。
そうすると、建物の建築に携わる設計者、施工者及び工事監理者(以下、併せて「設計・施工者等」という。)は、建物の建築に当たり、契約関係にない居住者等に対する関係でも、当該建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負うと解するのが相当である。
そして、設計・施工者等がこの義務を怠ったために建築された建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があり、それにより居住者等の生命、身体又は財産が侵害された場合には、設計・施工者等は、不法行為の成立を主張する者が上記瑕疵の存在を知りながらこれを前提として当該建物を買い受けていたなど特段の事情がない限り、これによって生じた損害について不法行為による賠償責任を負うというべきである。
居住者等が当該建物の建築主からその譲渡を受けた者であっても異なるところはない。
<最高裁平成23年7月21日>
⑴ 第1次上告審判決にいう「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」とは、居住者等の生命、身体又は財産を危険にさらすような瑕疵をいい、建物の瑕疵が、居住者等の生命、身体又は財産に対する現実的な危険をもたらしている場合に限らず、当該瑕疵の性質に鑑み、これを放置するといずれは居住者等の生命、身体又は財産に対する危険が現実化することになる場合には、当該瑕疵は、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当すると解するのが相当である。
⑵ 以上の観点からすると、当該瑕疵を放置した場合に、鉄筋の腐食、劣化、コンクリートの耐力低下等を引き起こし、ひいては建物の全部又は一部の倒壊等に至る建物の構造耐力に関わる瑕疵はもとより、建物の構造耐力に関わらない瑕疵であっても、これを放置した場合に、例えば、外壁が剥落して通行人の上に落下したり、開口部、ベランダ、階段等の瑕疵により建物の利用者が転落したりするなどして人身被害につながる危険があるときや、漏水、有害物質の発生等により建物の利用者の健康や財産が損なわれる危険があるときには、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当するが、建物の美観や居住者の居住環境の快適さを損なうにとどまる瑕疵は、これに該当しないものというべきである。
⑶ そして、建物の所有者は、自らが取得した建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵がある場合には、第1次上告審判決にいう特段の事情がない限り、設計・施工者等に対し、当該瑕疵の修補費用相当額の損害賠償を請求することができるものと解され、上記所有者が、当該建物を第三者に売却するなどして、その所有権を失った場合であっても、その際、修補費用相当額の補填を受けたなど特段の事情がない限り、一旦取得した損害賠償請求権を当然に失うものではない。
具体的な事例
施工業者が不備のある施工をしたために漏水が生じた事案において、施工業者の不法行為責任を認めた裁判例があります(大阪地裁平成21年11月12日)。
この点、建物の瑕疵によって居住者などの財産上の利益を侵害してはならないことも、設計・施工業者などの基本的な注意義務に含まれると考えられます。
そのため、居住者などの生命・身体への影響がないとしても、所有物に対して被害を及ぼすような建物の瑕疵(雨漏りにより居室内の建具にシミができるような場合)があれば、建物の基本的な安全性を損なうものとなり得ます。
これに対し、結露・遮音性能に関する瑕疵は建物の快適性を損なう瑕疵であり、建物の基本的な安全性を損なう瑕疵ではないとして、施工業者の不法行為責任を認めなかった裁判例があります(東京地裁平成20年8月29日)。
不法行為責任の期間
不法行為による損害賠償請は、次の期間が経過すると時効により消滅します(民法724条1項各号)。
- 被害者が損害と加害者を知った時から3年間
- 不法行為の時から20年間
なお、人の生命・身体を害する不法行為による損害賠償請求については、被害者が損害と加害者を知った時から5年間となります(民法724条の2)。