専有部分は、区分所有権の目的として区分所有者(区分所有法2条2項)による排他的な支配の対象となります。
専有部分の管理は、原則として区分所有者が行います。
これに対し、共用部分は、区分所有者の全員又はその一部の共有となります(区分所有法11条1項)。
共用部分の管理・変更は、保存行為を除き、集会決議や規約により行います(区分所有法17 条、18条、30条1項~3項)。
そこで、専有部分と共用部分をどのように区別するかが問題となります。
区分所有法の規定
専有部分に関して、区分所有法は以下のように規定しています。
- 一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して居住、店舗、事務所又は 倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、区分所有法の定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる(区分所有法1条)
- 区分所有法1条に規定された建物の部分(区分所有法4条2項により共用部分とされたものを除く)を区分所有権という(区分所有法2条1項)
- 区分所有権の目的である建物の部分を「専有部分」という(区分所有法2条3項)
他方、共用部分に関して、区分所有法は以下のように規定しています。
- 専有部分以外の建物の部分、専有部分に属しない建物の付属物及び区分所有法4条2 項の規定により共用部分とされた附属の建物を「共用部分」とする(区分所有法2 条4 項)
- 数個の専有部分に通じる廊下又は階段室その他構造上区分所有者の全員又はその一部の共用に供されるべき建物の部分は、区分所有権の目的とならない(区分所有法4条1項、法定共用部分)
- 区分所有法1条に規定する建物の部分及び附属の建物は、規約により共用部分とすることができる(区分所有法4 条2項前段、規約共用部分)
こうした規定によれば、専有部分とは、1棟の建物のうち、次のような部分となります。
- 構造上区分された部分であり(構造上の独立性)
- 独立して居住、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるもののうち(利用上の独立性)
- 規約により共用部分となる部分を除いたもの(区分所有法4条2項)
なお、区分所有法4条1項と区分所有法1条とは、同じことを表と裏から規定したものと考えられます。
したがって、特定の建物の部分が専有部分か(法定)共用部分かどうかは、1.構造上の独立性、2.利用上の独立性があるかどうかによって判断することになります。
構造上の独立性
構造上の独立性は、区分所有権の目的である建物の部分が、所有権の内容である物的支配に適するものでなければならないことから要求される要件です。
そして、特定の建物の部分について構造上の独立性があるかどうかは、以下のような点を総合的に考慮して、その部分が社会通念上、所有権の内容である物的支配に適するものと認められるか否かによって判断することになると考えられます。
- その部分と外部とを遮断する建物の構成部分の構造
- 建物の内外を画する標識の有無
- 当該部分の利用状況・利用形態
この点、区分所有法1条に規定された構造上他の部分と区分された建物部分とは、建物の構成部分である隔壁、階層等により独立した物的支配に適する程度に他の部分と遮断され、その範囲が明確であることをもって足り、必ずしも周囲すべてが完全に遮蔽されている必要はないとした裁判例があります(最高裁昭和56年6月18日-車庫の事案)。
また、構造上の独立性の判断において、当該部分の利用状況・利用形態を考慮することから、利用上の独立性の判断と重なる部分もあります。
利用上の独立性
利用上の独立性は、構造上他の部分から区分されていても、独立して利用するに適しない建物の部分については、区分所有を認める必要がないことから要求される要件です。
「住居、店舗、事務所又は倉庫」は例示であり、その他の建物としての用途に供せられるものを広く含みます。
廊下、階段室(階段が設けられた建物の部分)、エレベーター室(昇降機が上下する建物の部分)は、「建物としての用途」の効用を高めるためのもので、独立して建物としての用途に供することはできないため、利用上の独立性はないと考えられます。
利用上の独立性が認められるためには、直接又は共用部分を通って外部に通じる出入口を有するか、共用設備が存在するかが重要な判断基準になると考えられます。
利用上の独立性に関しては、以下のような裁判例があります。
- 構造上他の部分と区分され、かつ、それ自体として独立の建物としての用途に供することができるような外観を有する建物部分は、そのうちの一部に他の区分所有者らの共用に供される設備が設置され、このような共用設備の設置場所としての意味ないし機能を一部帯有しているようなものであっても、共用設備が建物部分の小部分を占めるにとどまり、その余の部分をもって独立の建物の場合と実質的に異なるところのない態様の排他的使用に供することができ、かつ、他の区分所有者らによる共用設備の利用、管理によって排他的使用に格別の制限ないし障害を生ずることがなく、反面、かかる使用によって共用設備の保存及び他の区分所有者らによる利用に影響を及ぼすこともない場合、なお専有部分として区分所有権の目的となりうる(前掲最高裁昭和56年6月18日-車庫の事例)
- 構造上他の建物部分と区分され、それ自体として独立の建物としての用途に供することができる外形を有する倉庫内の床から約2.05メートルの高さの部分に共用設備として大小の電気、水道等のパイプが通っている場合において、共用設備の利用管理によって倉庫の排他的使用に格別の制度ないし障害を生じないときは、倉庫は、専有部分にあたる(最高裁昭和56年6月18日-倉庫の事例)。
- 構造上他の建物部分と区分され、それ自体として独立の建物としての用途に供することができる外形を有する車庫内に、天井には排水管が取り付けられ、床下にはし尿浄化槽と受水槽があり、床面には地下に通ずるマンホール及び排水ポンプの故障に備えるための手動ポンプが設置されていて、浄化槽等の点検、清掃、故障修理のため専門業者がその車庫に立ち入って作業することが予定されている場合でも、共用設備の利用管理によって車庫の排他的使用に格別の制限ないし障害を生じない限り、車庫は、専有部分にあたらないとはいえない(最高裁昭和56年7月17日)
- 構造上地の建物部分と区分され、それ自体として独立の建物としての用途に供することができる外形を有する倉庫の内部において、その人口付近の壁面や床には電気スイッチ、配電盤、動力系スイッチ、汚水マンホール、雑排水マンホールが、また、床から約2.25メートルの高さの部分には電気、水道等のパイプが、それぞれ建物の共用設備として設置され、各種スイッチ操作およびマンホールの清掃のため倉庫への出入が必要とされている場合でも、共用設備の利用管理によって倉庫の排他的使用に格別の制限ないし障害を生じないときは、倉庫は専有部分に当たる(最高裁昭和61年4月25日-倉庫の事例の第2次上告審)
- 共用部分である管理事務室とこれに隣接する管理人室があるマンションにおいて、管理人室に構造上の独立性があるとしても、当該マンションの規模が比較的大きく、区分所有者の居住生活を円滑にし、その環境の維持保全を図るため、その業務に当たる管理人を常駐させ、管理業務の遂行に当たらせる必要があり、管理事務室のみでは、管理人を常駐させてその業務を適切かつ円滑に遂行させることが困難である場合には、両室は機能的に分離することができず、管理人室は、利用上の独立性がなく、専有部分には当たらない(最高裁平成5年2月12日)
標準管理規約(単棟型)の規定
専有部分と共用部分との区別に関する区分所有法の規定は抽象的であるため、(法定)共用部分であるか、専有部分であるかの区別が難しい場合もあります。
もっとも、専有部分であっても、規約により共用部分とすることはできるため(区分所有法4条2項前段)、規約で共用部分の範囲について規定することにより、建物の部分が(法定)共用部分であるか専有部分であるかを区別することも可能です。
そこで、標準管理規約(単棟型)8条・別表第2によれば共用部分の範囲は以下のように規定されています。
- エントランスホール、廊下、階段、エレベーターホール、エレベーター室、共用トイレ、屋上、屋根、塔屋、ポンプ室、自家用電気室、機械室、受水槽室、高置水槽室、パイプスペース、メーターボックス(給湯器ボイラー等の設備を除く。)、内外壁、界壁、床スラブ、床、天井、柱、基礎部分、バルコニー等専有部分に属さない「建物の部分」
- エレベーター設備、電気設備、給水設備、排水設備、消防・防災設備、インターネット通信設備、テレビ共同受信設備、オートロック設備、宅配ボックス、避雷設備、集合郵便受箱、各種の配線配管(給水管については、本管から各住戸メーターを含む部分、雑排水管及び汚水管については、配管継手及び立て管)等専有部分に属さない「建物の附属物」
- 管理事務室、管理用倉庫、清掃員控室、集会室、トランクルーム、倉庫及びそれらの附属物