管理組合の損害について組合員個人が理事長に対して損害賠償請求できますか

理事長が、故意や過失により管理組合に損害を与えた場合管理組合ではなく組合員個人は、理事長に対し、損害賠償請求できないと考えられます。

この問題では、次の2点を検討することになります。

  1. 管理組合が受けた損害についての損害賠償請求権は誰の権利か
  2. 理事長に対する損害賠償は保存行為(18条1項但書)となるのか

以下、それぞれについて説明します。

特に断りのない限り、条文の番号については区分所有法のものです。

損害賠償請求権は誰の権利か

管理組合の財産は、(組合員の財産ではなく)管理組合の固有の財産となります。

管理組合の財産には、損害賠償請求権などの金銭債権も含まれます。

管理組合の財産は、管理組合が法人の場合、法人の財産となります。

これに対し、管理組合が法人でない場合(権利能力なき社団)、組合員全員の共有財産となります。

管理組合全員の共有財産である状態を総有といいます。

総有とは、管理組合の財産について、各組合員は、持分をもたず、分割を請求することもできない状態をいいます。

理事長が、故意や過失により管理組合に損害を与えた場合、損害を受けた管理組合(管理組合法人)は、理事長に対し、債務不履行(民法644条・415条)や不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求をすることができます。

管理組合の理事長に対する損害賠償請求権は、管理組合の固有の財産です。

したがって、管理組合の理事長に対する損害賠償請求は、管理組合自身が主体となって行う必要があります。

よって、管理組合ではなく組合員個人は、理事長に対し、損害賠償請求できません。

この点、以下のような裁判例があります。

▶東京地裁平成4年7月29日

権利能力のない団体の資産について損害を生じた場合、その損害に関する賠償請求権は右団体の前構成員に総有的に帰属するにすぎないから、支払を受ければ直ちに団体に引き渡し組合の損害を填補する目的であったとしても、右団体の各構成員が単独で右損害の賠償を請求することはできないというべきである。

▶神戸地裁平成7年10月4日

原告らは、管理組合の構成員であるところ、管理組合の理事長は管理組合員から委任ないし代理を受けて組合総会の決議によって定められた業務等の執行をなすものであるから、その任務に背きこれを故意または過失によって履行せず、管理組合に損害を与えるようなことがあったときは、債務不履行となり、右理事長は管理組合に対して損害賠償の責めを負うべきことになる。
したがって、管理組合(ないし区分所有者全員)が原告となって右理事長に対して損害賠償を求める訴訟を提起することはできるが、管理組合の構成員各自が同様の訴訟を提起することができるかについては、建物の区分所有等に関する法律上、管理組合の構成員各自がその理事長に対する責任を問うことを認める旨の商法267条のような規定は存しないし、管理組合の構成員各自が民法423条により代位するという原告の構成もその要件を欠くというべきである。
そして、建物の区分所有等に関する法律(6条、57条)は、共同利益違反行為の是正を求めるような団体的性格を有する権利については他の区分所有者の全員または管理組合法人が有するものとし、これを訴訟により行使するか否かは、集会の決議によらなければならないとするように、区分所有者の共同の利益を守るためには区分所有者全員が共同で行使すべきものとしているところ、本件のように理事長の業務執行にあたっての落ち度を追及するような訴訟においても団体的性格を有する権利の行使というべきであるから右の法理が適用されるべきであり、一般の民法法理の適用される場面ではないものと解する。
以上より、本件建物の区分所有者らがその全体の利益を図るために訴訟を追行するには、区分所有者ら全員が訴訟当事者になるか、その中から訴訟追行権を付与された当事者を選定する等すべきことになるところ、そのような手続きを何ら踏んでいない原告らには本件訴訟を追行する権限はない。

保存行為となるのか

共用部分の保存行為は、各組合員が単独で行うことができます(18条1項但書)。

保存行為とは、共用部分を維持する行為(共用部分の滅失・毀損を防止して現状の維持を図る行為)のうち、緊急を要するか比較的軽度の維持行為をいいます。

理事長に対する損害賠償請求が保存行為に該当すれば、各組合員が単独で理事長に対して損害賠償請求することもできます。

この点、共用部分の保存行為とは、建物の共用部分そのものの現状を維持することをいうことから、理事長に対する損害賠償請求は、保存行為には該当しないとした裁判例があります(前掲東京地裁平成4年7月29日)。

よって、各組合員が単独で理事長に対して損害賠償請求をすることはできません。

▶前掲東京地裁平成4年7月29日

建物の各区分所有者は、区分所有建物の共用部分の保存行為をすることができるとされているが、右にいう共用部の保存行為とは、建物の共用部分そのものの現状を維持することをいうと解すべきであるから、区分所有建物の共用部分の改修工事の費用の支払に関し、区分所有建物の管理組合の元理事長がした不法行為に基づいて、建物の共用部分の補修のために積み立てられた組合資産に生じた損害であっても、その賠償を訴求することは、右にいう共用部分の保存行為に当たらないことが明らかである。