区分所有者による共用部分からの収益の持分に応じた分配請求

共用部分を第三者に賃貸することは、共用部分の管理に関する事項であり、集会の決議か規約の定めに基づき(区分所有法18条1項・2項)、管理組合(管理者が置かれている場合は代表である管理者)が、第三者との間で共用部分の賃貸借契約を締結します(区分所有法26条1項・2項前段)。

共用部分を使用させて生じる利益については、管理費・計画修繕の積立金などに充当するとの規約が多いとされています。

もっとも、このような規約からは、利益の分配方法や分配時期については明らかでありません。

そこで、各区分所有者は管理費用に充当した後の利益について具体的な分配請求権があるかどうかが問題となります。

この点、共用部分から生じた利益は、いったん区分所有者の団体(管理組合)に帰属して団体の財産になると考えられます。

そのため、集会の決議などにより、区組合員に配分すること・配分する金額・配分する時期などが具体的に決定されなければ、各組合員は、管理組合に対して持分に応じた分配を請求することはできないと考えられます(東京地裁平成3年5月29日、千葉地裁平成8年9月4日)。

<東京地裁平成3年5月29日>

原告らは、…共用部分の利用により生じた収益金合計…円が区分所有者らに現実に分配されなかったことが規約に違反する無効な会計処理であるとして、原告らは、被告に対して、その専有床面積の割合に応じて、右収益金の具体的な分配請求権を有すると主張…する…。

規約18条1項は、「区分所有者は、床面積の割合に応じて、共用部分から生ずる利益を収取する。」として、共用部分からの利益を収取する主体及び収取する割合を明らかにしているが、その分配方法又は分配時期については、同条2項が「前項の利益は、各区分所有者が負担する管理費用に、それぞれ振替充当する。」と規定するほかは、規約上には直接の規定はない。

ところで、区分所有建物においては、各区分所有者は、一棟の建物の一部を構成する専有部分に対して排他的な所有権を有する一方で、専有部分がその機能を保つために必要不可欠の補充的機能を営む共用部分に対して有する共有持分については、その分割又は解消を禁止され、専有部分と分離しての処分ができないなど、相互の拘束を受ける関係にある。
区分所有者らのこのような関係に照らすと、区分所有者らの間には、一種の人的結合関係が性質上当然に成立しており、各区分所有者は、右結合関係に必然的に伴う種々の団体的拘束を受けざるを得ない関係にある…。

…共用部分から生ずる利益は、…区分所有者各人がこれを収取するものとされているけれども、共用部分の利用による収益金が生じるためには、先ず、規約又は区分所有者集会の決議において、共用部分の管理の一環として収益源となる事業を行うことについての区分所有者らの団体内の意思決定がなされ、それに基づき、区分所有者ら又はこれから委任を受けた管理者が区分所有者らの団体の事業として共用部分を第三者の利用に供してその対価を徴収し、右対価からそれを得るために区分所有者ら又は管理者が支出した経費、費用等を差し引くなど、一連の団体的な意思形成と業務遂行をとおして得られる性質のものであることを考え合わせると、共用部分そのものではないそこから派生した利益を収取する権利も、団体的拘束から自由ではないのであって、各区分所有者らは、収益の発生と同時に当然に即時これを行使することができるといった性質のものではなく、結局、共用部分から生じた利益は、いったん区分所有者らの団体に合有的に帰属して団体の財産を構成し、区分所有者集会決議等により団体内において具体的にこれを区分所有者らに分配すべきこと並びにその金額及び時期が決定されてはじめて、具体的に行使可能ないわば支分権としての収益金分配請求権が発生するものというべきである。

原告らは、共用部分から生ずる利益の管理費用への振替充当について規定する規約18条2項を根拠として、収益金は右規定に基づき管理費用に振替充当した場合を除いて、すべて各区分所有者に分配されるべきであると主張するけれども、右条項の趣旨は、各区分所有者が区分所有者らの団体に対して負担する債務のうちで最も基本的なものであり、継続的・定期的に負担することが当然予想される債務である管理費用については、区分所有者集会における決議をまたずに直接同項の規定に基づき収益金を管理費用に振替充当する処理をすることができることを定めたものにすぎず、区分所有者集会の決議により収益金の会計処理として変更費用への振替充当や次年度への繰越をすることなどを禁ずるものではないことは明らかである。
また、原告らは、区分所有者集会の決議に基づき収益金を各区分所有者らに分配しない形での会計処理が行われたことをもって、多数決によって原告らが有する権利を奪うものであると主張するけれども、収益金の分配請求の内容、方法等については規約をもって別段の定めをすることができ(建物の区分所有等に関する法律19条参照)、共用部分から生ずる利益の分配を求める権利が具体的に行使可能となるためには手続的にも内容的にも団体的な意思形成が必要であることは、右権利自体に内在する制約であるというべきである。
そして、右の会計処理は、収益金を区分所有者らに分配しないこととする一方、区分所有者集会の決議に基づいて既に行われた修繕等について区分所有者らが負担すべき費用や将来の修繕等に備えて区分所有者らが積み立てるべき積立金・保険金等を個別に徴収しないこととするものであって、各区分所有者が区分所有者としての地位に基づき受ける利益を減じ又は負担を増すものではないのであるから、収益金を享受すべき主体及び割合を規定した規約18条1項の規定に抵触するものではない。

<千葉地裁平成8年9月4日>

控訴人が区分所有法66条、19条に基づき本件駐車場の収益に対する具体的な分配請求権を有するかにつき検討する。

区分所有法においては、各区分所有者は、一棟の建物の一部を構成する専有部分に対しては排他的な所有権を有する反面、専有部分がその機能を保つために必要不可欠の補充的機能を営む共用部分に対する共有持分については、その分割又は解消が禁止され、専有部分と分離して処分することが禁止されるなど相互拘束を受ける関係にある。
区分所有者らのこのような関係に照らすと、区分所有者らの間には一種の人的結合関係が性質上当然に成立しており、各区分所有者は、右結合関係に必然的に伴う種々の団体的拘束を受けざるを得ない関係にあり、このことは本件団地内の区分所有者らと一棟以上の建物所有者らとの問においても同様である。

また、共有部分の利用による収益金が生じるためには、規約又は区分所有者ら(本件においては一棟以上の建物所有者らを含む。)の集会決議において、共用部分の管理の一環として収益源となる事業を行うことについて団体内の意思決定がされ、それに基づき区分所有者ら又はこれから委任を受けた管理者が区分所有者らの団体の事業として共有部分を区分所有者ら又は第三者の利用に供してその対価を徴収し、右対価からそれを得るために区分所有者ら又は管理者が支出した経費等を差し引くなど、一連の団体的な意思形成とこれに基づく業務執行を経て得られるものであることを考えると、共有施設である本件駐車場の開設により得られた収益金についても、右の団体的拘束から自由ではなく、共用部分から生じた利益は、いったん区分所有者らの団体に合有的に帰属して団体の財産を構成し、区分所有者らの集会決議等により団体内において具体的にこれを区分所有者らに分配すべきこと並びにその金額及び時期が決定されて初めて各区分所有者らが具体的に行使できる権利としての収益金分配請求権が発生するものというべきである。