議事録等の閲覧・謄写

総会や理事会の議事録、会計帳簿等の閲覧・謄写請求をする根拠や閲覧・謄写請求が問題となった裁判例について説明します。

閲覧・謄写の根拠

区分所有法

集会の議事録・書面による決議に係る書面等について、規約を保管する者(原則として管理者、区分所有法33条1項本文)は、利害関係人の請求があったときは、正当な理由がある場合を除いて、閲覧を拒んではなりません(区分所有法33条2項、42条5項、45条4項)。

標準管理規約

総会議事録・書面による決議に係る書面等

総会議事録・書面による決議に係る書面等について、 理事長は、議事録を保管し、組合員又は利害関係人の書面による請求があったときは、議事録を閲覧させなければなりません(標準管理規約(単棟型)49条3項前段、50条4項)。

もっとも、閲覧については、相当の日時、場所等を指定することができます(標準管理規約(単棟型)49条3項後段)。

利害関係人とは、法律上の利害関係を有する者をいいます。

この点、マンションの区分所有者であった者が、マンションの持分を譲渡した場合には管理規約上「組合員又は利害関係人」に認められているマンション管理組合の会計帳簿等の閲覧請求はできないとした裁判例があります(東京高裁平成14年8月28日)。

<東京高裁平成14年8月28日>

利害関係人とは、本件マンションの管理及び控訴人の会計の経理について本件マンションの区分所有者たる組合員に準ずる管理規約上の地位を現に有する者であって、その地位に基づき管理組合に対して会計帳簿等の閲覧を請求する法律上の利害関係があると認められる者(例えば、区分所有者からその専有部分の貸与を受け、管理組合にその旨の届出があった者又はその同居人、管理組合との間で組合管理部分について貸与、管理受託その他の契約関係を有する者等でその地位と当該閲覧請求との間に法律上の関連性が認められる者が想定される。)をいい、単にその閲覧につき事実上の利害関係を有するにすぎない者を含まない…。
…被控訴人が控訴人の組合員として管理規約に基づき控訴人に対し当該役員に対する損害賠償請求権を行使するなどの措置を講ずるように要求し、又は他の組合員にこれに同調するよう訴えるなどの行動をする権利(すなわち被控訴人の控訴人の組合員たる資格の中味の一つ)も、被控訴人が従前有していた共有持分とともに…その譲受人に移転したことによって、これを喪失したものといわざるを得ないのである。
そして、他に、被控訴人が…上記のような組合員に準ずる管理規約上の地位を有する者(ひいてはその地位に基づき会計帳簿等の閲覧及び謄写を請求する法律上の利害関係があると認められる者)と認めるに足りる証拠は何ら存しない。
そうすると、被控訴人は、管理規約…にいう利害関係人に該当する者とはいえない。

また、総会議事録の関連資料の閲覧請求はできないとした裁判例があります(東京地裁平成26年9月18日)。

<東京地裁平成26年9月18日>

被告管理組合では、総会の招集に当たり、招集通知に議案説明書を添付して議題を説明するほか、事業報告書、年間行事等実績表、管理費会計計算書・収支予算書(案)、予算決算対比表、正味財産増減計算書、貸借対照表、財産目録等の会計書類に加え、預金残高証明書、定期預金証書、出資証券、預金通帳等の帳票類、更には駐輪場使用料台帳、特別修繕会計管理組合運用分、定期預金作成原資、収入ならびに諸費用支払明細といった題目の報告書のほか、監査報告書、管理規約の改正案などを添付し、これらの文書等を基礎に総会がなされ、その結果が議事録に記載されているものと認められ、そうすると、上記各文書はいずれも独立した文書であるといわざるを得ず、当該総会において議題等として取り上げられた上記各文書における記載が上記総会において議題となった内容の一部を指すとしても、そのことから、それらが記載されている上記各文書が当然に議事録と一体をなすものと認めることはできない。
また、本件管理規約においては、議事録について、議事の経過の要領及びその結果を記載した上で議長及び議長の指名する2名の参加した組合員が署名押印することを定めるにとどまり、その議事の詳細やその議題において使用した資料等を一体の文書として作成することまでも要求していないこと(本件管理規約47条2項)、総会においては、収支決算、事業報告、収支予算及び事業計画が決議事項となるが…、これを示す会計書類や帳票類については、帳票類の作成、保管に関する別途の規約を異なる要件で閲覧請求権についての定めを置いている…ことからすれば、本件管理規約の議事録とは、その関連資料も含むものであるとは考え難い。
そうすると、…各通常総会並びに…臨時総会の議事録の関連資料の閲覧を求める原告の請求について、これらについて本件管理規約47条2項を根拠にその閲覧を求めることはできないというべきである。

理事会議事録

理事会議事録について、理事長は、議事録を保管し、組合員又は利害関係人の書面による請求があったときは、議事録の閲覧をさせなければなりません(標準管理規約(単棟型)53条2項・49条3項)。

会計帳簿、什器備品台帳、組合員名簿その他の帳票類

会計帳簿、什器備品台帳、組合員名簿その他の帳票類について、理事長は、会計帳簿、什器備品台帳、組合員名簿及びその他の帳票類を作成して保管し、組合員又は利害関係人の理由を付した書面による請求があったときは、これらを閲覧させなければなりません(標準管理規約(単棟型)64条)。

なお、組合員名簿の閲覧については、別のページで説明します。

裁判例

議事録等の閲覧・謄写請求に関しては、対象となる文書、閲覧の方法、謄写の可否等が問題となった次のような裁判例があります。

  • [マンション管理組合連絡協議会=マンション管理組合等を構成員とする権利能力なき社団の事案]会員一覧表、会計関係書類等の閲覧・謄写を認めなかった裁判例(東京高裁平成12年11月30日)
  • 総勘定元帳、現金出納帳、預金通帳及びそれらを裏付ける領収証、請求書等の会計関係書類一切の閲覧を認め、謄写を認めなかった裁判例(東京高裁平成23年9月15日)
  • デジタルカメラにより撮影する方法による文書の謄写を認めなかった裁判例(前掲東京地裁平成26年9月18日)
  • 総会議事録・理事会議事録・会計帳簿及び裏付けとなる原資料・什器備品台帳の閲覧・写真撮影を認めた裁判例(大阪高裁平成28年12月9日)
    *この裁判例は、管理規約で閲覧が認められていない会計帳簿の裏付けとなる原資料の閲覧、請求されたすべての文書の写真撮影を認めました。
  • 預金通帳・管理組合が過去に当事者となった訴訟で委任した訴訟代理人弁護士への委任にかかる費用についての請求書・銀行振り込み領収書の閲覧・閲覧の際の写真撮影を認め、謄写を認めなかった裁判例(名古屋地裁令和元年10月25日)
  • 理事会議事次第及びその添付資料の閲覧・写真撮影を認めなかった裁判例(東京地裁令和2年8月31日)

<東京高裁平成12年11月30日>

控訴人には根本規約というべき「マンション管理組合連絡協議会会則」があり、同会則においては、…会員名簿や会計関係書類の開示や閲覧に関する規定は何ら設けられていない。
…右会則が会員に会員名簿や会計関係書類の開示や閲覧を認めていないことが、不合理であるとか公序良俗に違反するものであるとかということはできない。
…そうすると、右に述べたとおり控訴人の会則には、会員が控訴人に対し、会員一覧表や会計関係書類等の閲覧謄写を求めることを認める規定の定めがない以上、本件において、被控訴人は、控訴人に対し、本件会員一覧表及び本件会計関係書類等の閲覧及び謄写を請求することはできないものといわなければならない。

<東京高裁平成23年9月15日>

⑴ 被控訴人らは、本件規約上謄写を認める規定はないが、閲覧が許される場合には謄写も許されるべきであると主張する。
しかし、謄写をするに当たっては、謄写作業を要し、謄写に伴う費用の負担が生じるといった点で閲覧とは異なる問題が生じるのであるから、閲覧が許される場合に当然に謄写も許されるということはできないのであり、謄写請求権が認められるか否かは、当該規約が謄写請求権を認めているか否かによるものと解される。
…このように本件規約で閲覧請求権について明文で定めている一方で、謄写請求権について何らの規定がないことからすると、本件規約においては、謄写請求権を認めないこととしたものと認められる。
⑵ これに対し、被控訴人らは、本件規約が制定されたのが30年近く前のことであり、当時は現在のようにコピー機が広汎に普及していなかったため謄写請求権を明文化しなかったものであり、謄写請求権を否定する趣旨ではないと主張するが、本件規約に謄写請求権の規定が設けられていない理由が被控訴人ら主張の趣旨であると認めるに足りる証拠はない。
被控訴人らは、管理組合の運営に関して会計の面から組合員に監督・是正の機会を与えるという会計関係書類の閲覧請求権の趣旨に鑑みると、明文の規定がないというだけで直ちに謄写請求権を排除する趣旨と解すべきではなく、謄写は閲覧の意義をより高めることになるから、謄写請求権まで認めることが当事者の合理的意思に適うとも主張する。
しかし、前記のとおり謄写請求権を認めるためには閲覧請求権とは異なる問題が生じることに照らすと、被控訴人らが主張する閲覧請求権の趣旨を実現するために、当然に謄写請求権まで認められることにはならないものというべきである。
被控訴人らは、閲覧のみしか認めないとなると必然的に長時間の閲覧が必要となり、場合によっては2回、3回の閲覧が必要となるのに対し、謄写が認められれば、閲覧者が閲覧に要する時間は非常に短くなり、謄写を認めることは閲覧をさせる控訴人の利益にもなるから、謄写請求権が認められるべきであると主張する。
しかし、控訴人は、組合員からの閲覧請求に対して社会通念上相当と認められる時間閲覧をさせることで足り、1回の閲覧請求で不相当に長時間の閲覧が認められるものではないから、閲覧の時間を短縮するために謄写請求権を認めるべきとの主張は理由がない。

<前掲東京地裁平成26年9月18日>

3 争点⑶(本件各文書をデジタルカメラにより撮影する方法により謄写する請求権の有無)について

⑴ 原告は、本件管理規約には組合員に謄写を認める規定がないことを前提に、組合員の閲覧請求権を適正に行使させるためには、閲覧のみでは目的を達成できない場面が容易に想定できるから、閲覧請求が認められる文書については閲覧に加えて謄写を求めることができると解すべきであるとし、少なくとも、デジタルカメラにより撮影する方法によって謄写することができる権利がある旨主張する。
確かに、デジタルカメラによって画像を撮影する方法によって文書を謄写する場合には、デジタルカメラによる撮影費用のみが必要となり、また、筆記等の謄写に比べればその謄写時間も短縮することができるのであり、被告管理組合に対する負担は相応に軽減されるといえる。
しかしながら、文書の閲覧と文書の謄写とは、上記費用の要否といった点でも、当該文書に対する接触する方法・態様においても異なるものであって、あえて本件管理規約においては文書に対する閲覧のみが規定され、謄写についての規定がなされていないことからすれば、本件管理規約が文書の謄写を組合員に認めているということはできない。
⑵ したがって、原告が被告管理組合に対して本件各文書の謄写を求めることはできない。

<大阪高裁平成28年12月9日>

2 委任に関する民法の規定の類推適用の可否について

⑴ マンション管理組合と区分所有者の間の法律関係
部落や自治会等の社団がその管理する公民館を保有しているような場合とは異なり、被控訴人は社団ではあるものの、自身が管理する本件マンションの敷地と共用部分を保有しているわけではない。
それらは、組合員が保有(共有)する財産である。
また、被控訴人は、独自の事業経営により管理費用を捻出しているわけではなく、区分所有者が拠出する金銭や敷地(駐車場区画)使用料を必要経費に充てているのである。
法的にみれば、被控訴人は、他人の費用負担の下に、当該他人の財産を管理する団体である。
そうすると、被控訴人と組合員との間には、前者を敷地及び共用部分の管理に関する受任者とし、後者をその委任者とする準委任契約が締結された場合と類似の法律関係、すなわち、民法の委任に関する規定を類推適用すべき実質があるということができる。
そこで、被控訴人保管文書の閲覧謄写の根拠となり得る民法645条の規定を、被控訴人と控訴人との間に類推適用することが、マンション管理を巡る法律関係に妥当するのかどうかについて検討する。
⑵ 適正化推進法の規定及びマンション管理適正化指針
…管理組合の区分所有者に対する情報開示義務に関し、法令の解釈適用をするに当たっては、このように、適正化推進法が施行されて長年が経過し、…マンション管理適正化指針が公表されているという経過を踏まえて行うべきである。
⑶ 一般社団法の規定
…一般法人法が…情報開示を保障しているのに、社団である管理組合にあっては同様の保障が及ばないと考える合理的な根拠は見出し難い。
⑷ 民法645条の類推適用
上記⑴ないし⑶のとおり、管理組合と組合員との間の法律関係が準委任の実質を有することに加え、マンション管理適正化指針が管理組合の運営の透明化を求めていること、一般法人法が法人の社員に対する広範な情報開示義務を定めていることを視野に入れるならば、管理組合と組合員との間の法律関係には、これを排除すべき特段の理由のない限り、民法645条の規定が類推適用されると解するのが相当である。
したがって、管理組合は、個々の組合員からの求めがあれば、その者に対する当該マンション管理業務の遂行状況に関する報告義務の履行として、業務時間内において、その保管する総会議事録、理事会議事録、会計帳簿及び裏付資料並びに什器備品台帳を、その保管場所又は適切な場所において、閲覧に供する義務を負う。
次に、民法645条の報告義務の履行として、謄写又は写しの交付をどの範囲で認めることができるかについて問題となるところであるが、少なくとも、閲覧対象文書を閲覧するに当たり、閲覧を求めた組合員が閲覧対象文書の写真撮影を行うことに特段の支障があるとは考えられず、管理組合は、上記報告義務の履行として、写真撮影を許容する義務を負うと解される。

<名古屋地裁令和元年10月25日>

建物の区分所有等に関する法律は規約…及び議事録…の閲覧につき規定するものの会計帳簿等の閲覧等についての規定を置いていない。
また、マンション標準管理規約…において、会計帳簿等について、一定の請求があったときは閲覧させなければならず、閲覧につき相当の日時場所等を指定することができ、閲覧の対象とされる情報につき情報を記入した書面を交付することができるとの規定を置いており…、閲覧の義務についての定めはあるが謄写の義務についての定めはない。
そして、文書の保管場所からの持ち出しが相当でない場合もあり得るところ、文書の保管場所における謄写(コピー)を認めるとすれば使用に支障のない状態の機器を維持管理する必要があるが、かかる維持管理の可否等については当該団体の個別事情によるところもある。
そうすると、会計帳簿等の閲覧の方法や謄写の可否及び方法については、基本的には当該団体の自治に委ねられるものと解するのが相当である。
この点、本件管理規約…は、会計帳簿等につき「組合員の請求があったときは、これを閲覧させなければならない」と規定して謄写を認めていないこと…、閲覧の際の写真撮影を認めることによって実質的に報告義務は履行されて管理組合の運営の透明化の趣旨に反するところはないことを考慮すれば、仮に、原告が主張する民法645条に基づく閲覧請求権が認められるとしても、同請求権の内容として、閲覧及び閲覧の際の写真撮影の範囲を超えて、本件各文書の謄写(コピー)及び閲覧の方法の指定等[原告が閲覧の立会人を指定する等]を含むものとは解されない。
よって、原告の請求する本件各文書の謄写(コピー)及び閲覧方法の指定にかかる請求には理由がない。
なお、閲覧の日時及び立会人については、被告の指定する方法によるのが相当である。

<東京地裁令和2年8月31日>

2 争点⑴について

⑴ 原告は、適正化法及び指針の趣旨を踏まえれば、理事会の運営については透明化される必要があるという問題意識を前提にして、原告が本件各文書を閲覧する必要性が高いこと、他方で被告がその閲覧を禁止しなければならない具体的な必要性は認められないことを理由に、本件規約の「議事録」に、理事会議事次第も含めて解釈されるべきであると主張しているものと解される。
⑵ そこで検討するに、まず、本件規約上、閲覧の対象とされるのは明確に「議事録」と記載されていること、…議事録と理事会議事次第とは、作成者も異なることも踏まえると、理事会議事次第が、「議事録」に含まれると文言上解することは極めて困難である。
⑶ さらに、原告が本件各文書を閲覧する必要性について検討すると、確かに原告が主張するとおり、原告のような一般組合員は、理事会議事録のみを閲覧した場合、理事会において議論された事項に関連した資料や、管理会社からの報告の具体的内容について知ることができないことになる。
しかしながら、理事会議事録には議事の経過の要領及びその結果が記載されるところ…、被告の議事録もこれに従って議題等についてある程度詳細に記載しており、閲覧者はどのような議題が審理され、どのような決定がされたかについては議事録を閲覧することで認識することが十分可能である。
また、…被告理事会で議論されたもののうち、一部の資料については、被告の通常あるいは臨時総会において資料が配布された上総会での議決を経ていること、被告も指摘するとおり、そもそも理事会が、理事会内部で議論したことを一般組合員に開示する義務があるわけでもなく、理事の業務の執行について監査するのは、一般組合員ではなく、監事の職務であり…、適正化法やそれを受けた指針の趣旨もこの限度では十分実現されることなども踏まえると、一般組合員である原告が理事会議事次第の内容について閲覧をする必要性が高いとはいえない。
⑷ また、そもそも理事会内部での議論の内容や、その前提として管理会社から理事会に報告される内容は、区分所有者は居住者等のセンシティブな情報が含まれるもの等もあり…、原告を含む一般組合員に開示することにより、理事会における自由な議論が阻害され、また他の区分所有者に不測の損害を及ぼす恐れがないとはいえないことも踏まえると、被告が本件議事次第の閲覧を認めないとしたことには一定の必要性があったということができる。
なお、原告は、被告が理事会議事次第の閲覧を拒否するようになったのは、原告が申し立てた調停に対する報復措置であったと主張する。
しかしながら、原告が理事会議事次第の閲覧を認められなくなったことが、原告と被告との調停を契機とするものであったとしても、そもそも前記⑵、⑶に説示したことを踏まえれば、原告には閲覧が拒否されるまで理事会議事次第の閲覧請求権を認められる法的立場にあったとまでは言い難い。
⑸ したがって、原告に、本件各文書の閲覧請求権はない。

3 争点⑵について

前記2のとおり、原告に本件各文書の閲覧請求権はないのであるから、同請求権を前提とした写真撮影請求権もない。