招集通知に不備がある場合の総会決議の効力

総会が開催されて決議があった場合でも、招集通知に不備があったときは、総会の決議は原則として無効となります。

もっとも、瑕疵が重大でないにもかかわらず、決議が無効になると、円滑で安定的な管理運営が妨げられます。

そこで、招集通知の不備が重大でない場合には、決議は無効にならないと考えられます。

招集通知の欠如

集会の招集の通知は、会日より少なくとも1週間前に、会議の目的たる事項を示して、各区分所有者に発しなければなりません(区分所有法35条1項本文)。

そして、招集通知は、区分所有者が管理者に対して通知を受けるべき場所を通知したときはその場所に、これを通知しなかったときは区分所有者の所有する専有部分が所在する場所にあててします(区分所有法35条3項本文)。

なお、標準管理規約では、以下のように規定されています。

  • 招集通知は、管理組合に対し組合員が届出をしたあて先に発するものとし、その届出のない組合員に対しては、対象物件内の専有部分の所在地あてに発するものとする(43条2項)。
  • 対象物件内に居住する組合員及び前項の届出のない組合員に対しては、その内容を所定の掲示場所に掲示することをもって、これに代えることができる(43条3項)。

この点、区分所有者の一人に招集通知がなかった場合でも、総会決議は無効にならないとされた裁判例があります(東京地裁昭和63年11月28日)。

▶東京地裁昭和63年11月28日

建物の区分所有等に関する法律35条によれば、集会の召集…の通知は、各区分所有者に発すべきこととされており(同条1項)、右通知は、区分所有者が管理者に対して通知を受けるべき場所を通知したときはその場所に、これを通知しなかったときは区分所有者の所有する専有部分が所在する場所にあててすべきことになっているところ(同条2項)、…原告は本件建物内に居住しておらず、また管理者に対して集会の召集…の通知を受けるべき場所を通知していなかったことが認められる。
したがって、被告管理組合としては、総会召集…の通知を原告の所有する専有部分(本件店舗)が所在する場所に通知すべきであったが、…被告管理組合はこれを行わず、本件店舗の登記簿上の原告の住所に通知したため、これが原告の現住所に到達せず返送されたことが認められるので、右総会召集…の通知手続には瑕疵があるというべきである…。
しかしながら、総会召集…の手続に瑕疵があったとしても、それによって当然総会の決議が無効となるものではなく、右瑕疵が重大な瑕疵である場合に限り無効となるものと解される。
そこで、さらに検討するに、…右総会の決議は、議決権総数60人のところ、出席者及び委任状提出者計57人の一致でなされたことが認められ、右事実にかんがみると、右招集の通知の欠缺は総会決議に影響を与えるものとは認められないので、右瑕疵をもって、決議の無効原因となるような重大な瑕疵ということはできない

議題・議案の要領の不備

集会の招集の通知は、会日より少なくとも1週間前に、会議の目的たる事項を示して、各区分所有者に発しなければなりません(区分所有法35条1項本文)。

そして、会議の目的たる事項が次のものに関する決議事項である場合、その議案の要領をも通知しなければなりません(区分所有法35条5項)。

  • 共用部分の変更(形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く、区分所有者17条1項)
  • 規約の設定・変更・廃止(区分所有者31条1項)
  • 大規模滅失の場合の共用部分の復旧(区分所有法61条5項)
  • 建替え(区分所有法62条1項)
  • 団地規約の定め(区分所有法68条1項)
  • 団地内の建物の建替え承認(区分所有法69条7項)

会議の目的とは「議題」のことをいいます。

議題とは、会議にかけて討議・決議するテーマのタイトルです。

例えば、「管理費値上げの件」「規約改正の件」「理事選任の件」などです。

また、議案の要領とは、決議内容についての原案を要約したものです。

例えば、「規約●条を…と改正する」などです。

この点、議題や議案の要領の通知がなかった場合に、総会の決議が無効とされた裁判例があります(東京地裁昭和62年4月10日、東京高裁平成7年12月18日)。

▶東京地裁昭和62年4月10日

本件臨時総会の召集に際して、旧規約の廃止及び新規約の設定を議題とすることはあらかじめ通知がなく、議案の要領の通知もなかった。
…本件臨時総会の召集手続の瑕疵は、区分所有関係の基礎となるべき規約の廃止、設定という集会で決議すべき事項の中では最も重要な部類に属する議題に関するものであること、…新規約は、単に法に不適合の部分を改めるに留まらず、建物の用法に関して一章を置き、詳細な規定(その中には、本件ハイツを101号及び201号以外住居専用とする旨の規定もある。)を設けたこと…、被告が区分所有者を代理して各種保険(その中には個人賠償責任保険も含まれている。)を締結し、保険金を受領し、これを修復費用に充当することを後者が承認する旨の規定を置いたこと…、旧規約では認めていた借家人を代理人とする議決権行使を排除していること…など本件ハイツの管理に関し改正された法に適合させるため不可欠とはいえない事項についても規定を新設していることが認められること…、法は区分所有建物の管理につき集会中心主義をとり、重要な事項はすべて集会の決議によって定めることとし、とりわけ規約の設定、変更、廃止については区分所有者及び議決権の4分の3以上の多数の決議によることとする(法31条1項)とともに、あらかじめ通知することなく規約の設定、変更又は廃止を決議することは規約をもってしても定めることができないとしていること(法37条2項)、集会において決議すべき事項については、区分所有者全員の書面による合意があったときに限り、集会の決議があったものとみなされること(法45条1項)としていることに鑑みれば、前記召集手続の瑕疵はけっして軽微なものとはいえず、…右瑕疵を理由とする本件決議の無効を主張することができなくなるものと解することはできない。
…以上によれば、本件臨時総会の召集手続には本件決議に関する限り瑕疵があるから、これに基づいてなされた本件決議は無効というべきであり、したがってまた、本件決議によって設定された新規約は集会の決議によって設定されたものということはできないから無効といわざるをえない。

▶東京高裁平成7年12月18日

総会の招集通知においては、通常は、その目的たる事項(議題)を示せば足りるが、規約の改正等一定の重要事項を決議するには、そのほかに議案の要領をも通知すべきこととされているところ(区分所有法35条5項)、右の趣旨は、区分所有者の権利に重要な影響を及ぼす事項を決議する場合には、区分所有者が予め十分な検討をした上で総会に臨むことができるようにするほか、総会に出席しない組合員も書面によって議決権を行使することができるようにし、もって議事の充実を図ろうとしたことにあると解される。
右のような法の趣旨に照らせば、右議案の要領は、事前に賛否の検討が可能な程度に議案の具体的内容を明らかにしたものであることを要するものというべきである。
これを本件についてみるに、本件総会…の招集通知には、本件決議…に対応する第5号議案として、「規約・規則の改正の件(保険条項、近隣関連事項、総会条項、議決権条項、理事会条項)」と記載されているにすぎないところ…、右をもって議案の内容を事前に把握し賛否を検討することが可能な程度の具体性のある記載があるとは到底いうことができない。
そうすると、本件決議…の決議事項については、議案の要領の通知に欠けるから、その決議には区分所有法35条5項所定の総会招集手続に違背した瑕疵があるといわざるを得ない。

そして、右議案の要領の通知を欠くという招集手続の瑕疵がある場合の決議の効力について検討するに、法が議案の要領を通知することとした趣旨は前示のとおりであるから、議案の要領の通知の欠缺は、組合員の適切な議決権行使を実質上困難ならしめるものというべきであって、これをもって軽微な瑕疵ということはできない
とりわけ、本件決議…のうちの規約44条(議決権)の改正は、従来、最小区分所有単位を1票とし、その所有する専有面積比割合により議決権の票数を算定していたものを、所有戸数、所有専有面積のいかんにかかわらずすべて1組合員1票にするというもので、組合員の議決権の内容を大幅に変更し、複数の票数を有していた組合員に極めて大きな不利益を課すことになる制度改革であるから、事前に各組合員に右改正案の具体的内容を周知徹底させて議決権を行使する機会を与えるように特に配慮することが必要である。
しかし、本件においては、区分所有者は右通知において議決権条項の改正が審議され、決議されることは認識できたものの、その具体的内容を把握できなかったため、右のような重大な議決権内容の変更を伴う規約改正が行われることを事前に知ることができなかったものであり、その結果、58票を有していたS、24票を有していたN、2票を有していたYにおいては、その議案の重要性を認識することなく被控訴人に対し、…理事長に一任する旨の委任状を提出したこと、しかし、右決議まもなく右内容を控訴人から知らされて初めて決議内容の重大性を知って驚き、事前に知っていれば理事長に一任する旨の委任状を提出することはなかったとして、控訴人を通じて被控訴人に対し、委任を取り消す旨申し出ていたこと…が認められる。
そして、本件決議…の議決が成立するためには区分所有者及び議決権数の各4分の3以上の多数の賛成が必要とされるところ(区分所有法31条1項)、…右各組合員らが一任の委任状を提出せず、これらの議決権数が賛成票に算入されなければ、議決権数657票の4分の3である493以上の賛成票を集めることはできず、右決議は可決されなかったことが明らかである。
以上の事実を勘案すれば、本件決議…の決議については、重大な手続違反があり、これを無効と解するのが相当である。

通知期間の不足

集会の招集の通知は、会日より少なくとも1週間前に、会議の目的たる事項を示して、各区分所有者に発しなければなりません(区分所有法35条1項本文)。

もっとも、この期間は、規約で伸縮することができます(区分所有法35条1項但書)。

そして、標準管理規約では、総会を招集するには、少なくとも会議を開く日の2週間前(会議の目的が建替え決議又はマンション敷地売却決議であるときは2か月前)までに、会議の日時、場所及び目的を示して、組合員に通知を発しなければならない、とされています(43条1項)。

この点、総会の招集通知が総会開催日の3日前に配布されたものの、総会の決議は有効とされた裁判例があります(神戸地裁姫路支部平成9年5月27日)。

▶神戸地裁姫路支部平成9年5月27日

…原告らは、まず、総会招集通知が総会開催日の3日前に配布された点で瑕疵がある旨主張する。
たしかに、…本件合同総会の通知は開催日の3日前である平成4年7月14日に商人会会員らに配布されており、これは会日より少なくとも1週間前に発しなければならないとする区分所有法35条1項本文に合致するものではない。
しかしながら、商人会会員でない原告Kが本件合同総会に関して提出した委任状…の日付は平成4年7月6日付となっており、同人が本件合同総会開催の連絡を受けたのはその頃と考えられること、…ワンフロアー推進派…から原告らの要望に対する回答を平成4年7月10までにする旨予定されていながら期日までに何の回答もされず、これに対して原告らも再度の回答要求などをしていないこと、本件合同総会にNの代表取締役も出席していたことなどを考慮すると、本件合同総会は直前になって突然に決められたものではなく、関係者にはより早い時期にその開催が事実上連絡されていたことが窺える。
そして、本件建物区分所有者のうちで本件合同総会に欠席したのはかねてから退店の意思表明をしていた1名のみであり、他の区分所有者はすべて本件合同総会に出席して決議に参加していることなども併せ考慮すると、原告ら主張の右手続違背は本件合同総会の効力に影響を及ぼすものではないと解するのが相当である。