不在組合員による協力金の負担

規約の設定・変更により、不在組合員(自らが専有部分に居住しない組合員)に特別の協力金を負担してもらうことが、一部の区分所有者に「特別の影響を及ぼす」場合、その区分所有者の承諾を得なければなりません(区分所有法31条1項後段)。

これに対し、一部の区分所有者に「特別の影響を及ぼす」場合でなければ、一部の不在組合員が反対したとしても、規約の設定・変更により、不在組合員に対して特別の協力金を負担してもらうことができます。

そこで、どのような場合に「特別の影響を及ぼす」といえるかについて、説明します。

特別の影響の意味

「特別の影響を及ぼす」(区分所有法31条1項後段)とは、規約の設定・変更などの必要性・合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超える場合をいいます(最高裁平成10年10月30日)。

最高裁平成10年10月30日の詳細については、こちらのページで説明します。

不在組合員の協力金に関する裁判例

不在組合員の協力金の負担に関し、以下のような裁判例があります。

協力金を負担してもらうこと自体ができるとしても、どの程度の負担であれば許容されるかについては、具体的な事情によって異なり、明確に判断することは困難です。

そのため、協力金の負担を求める場合、事前に不在組合員に対して、十分な説明を尽くし、理解を得るための努力をすることが必要であると考えられます。

なお、平成23年7月の改正により、標準管理規約において役員の居住者要件は廃止されています。

<最高裁平成22年1月26日>

本件は、マンションの管理組合である上告人が、その組合員である亡A(原審口頭弁論終結後に死亡)の相続人である被上告人らに対し、集会決議により変更された規約に基づき、同規約上、自らその専有部分に居住しない組合員が負担すべきものとされた月額2500円の「住民活動協力金」…の支払を求める事案である。
被上告人らは、上記の規約の変更は、建物の区分所有等に関する法律(以下「法」という。)31条1項後段にいう「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」に該当し、亡Aの承諾がないから無効であるなどと主張して、上告人の請求を争っている。

⑴ 法66条が準用する法31条1項後段の「規約の設定、変更又は廃止が一部の団地建物所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の団地建物所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該団地建物所有関係の実態に照らして、その不利益が一部の団地建物所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいう(最高裁平成…10年10月30日…)。

⑵ …本件マンションは、規模が大きく、その保守管理や良好な住環境の維持には上告人及びその業務を分掌する各種団体の活動やそれに対する組合員の協力が必要不可欠であるにもかかわらず、本件マンションでは、不在組合員が増加し、総戸数868戸中約170戸ないし180戸が不在組合員の所有する専有部分となり、それらの不在組合員は、上告人の選挙規程上、その役員になることができず、役員になる義務を免れているだけでなく、実際にも、上告人の活動について日常的な労務の提供をするなどの貢献をしない一方で、居住組合員だけが、上告人の役員に就任し、上記の各種団体の活動に参加するなどの貢献をして、不在組合員を含む組合員全員のために本件マンションの保守管理に努め、良好な住環境の維持を図っており、不在組合員は、その利益のみを享受している状況にあったということができる。
いわゆるマンションの管理組合を運営するに当たって必要となる業務及びその費用は、本来、その構成員である組合員全員が平等にこれを負担すべきものであって、上記のような状況の下で、上告人が、その業務を分担することが一般的に困難な不在組合員に対し、本件規約変更により一定の金銭的負担を求め、本件マンションにおいて生じている不在組合員と居住組合員との間の上記の不公平を是正しようとしたことには、その必要性と合理性が認められないものではないというべきである。
居住組合員の中にも、上記のような活動に消極的な者や高齢のためにこれに参加することが事実上困難な者もいることはうかがえるのであって、これらの者に対しても何らかの金銭的な負担を求めることについては検討の余地があり得るとしても、不在組合員の所有する専有部分が本件マンションの全体に占める割合が上記のように大きなものになっていること、不在組合員は個別の事情にかかわらず類型的に上告人や上記の各種団体の活動に参加することを期待し得ないことを考慮すると、不在組合員のみを対象として金銭的負担を求めることが合理性を欠くとみるのは相当ではない。
また、平成19年総会における決議により、役員に対する報酬及び必要経費の支払が規約上可能になったものの、上告人の活動は役員のみによって担われているものではなく、不在組合員と居住組合員との間の上記の不公平が、役員に対する報酬の支払によってすべて補てんされるものではないから、そのことを理由として本件規約変更の必要性及び合理性を否定することはできない。
そして、本件規約変更により不在組合員が受ける不利益は、月額2500円の住民活動協力金の支払義務の負担であるところ、住民活動協力金は、全組合員から一律に徴収されている組合費と共に上告人の一般会計に組み入れられており、組合費と住民活動協力金とを合計した不在組合員の金銭的負担は、居住組合員が負担する組合費が月額1万7500円であるのに対し、その約15%増しの月額2万円にすぎない。
上記のような本件規約変更の必要性及び合理性と不在組合員が受ける不利益の程度を比較衡量し、加えて、上記不利益を受ける多数の不在組合員のうち、現在、住民活動協力金の趣旨に反対してその支払を拒んでいるのは、不在組合員が所有する専有部分約180戸のうち12戸を所有する5名の不在組合員にすぎないことも考慮すれば、本件規約変更は、住民活動協力金の額も含め、不在組合員において受忍すべき限度を超えるとまではいうことができず、本件規約変更は、法66条、31条1項後段にいう「一部の団地建物所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」に該当しないというべきである。

<東京地裁平成24年11月16日>

…本件は、マンションの管理組合である原告が、同マンションの1室を所有する被告に対し、…未払管理費等…の支払いを求め…、これに対し、被告は原告に対し、…反訴請求として、被告が原告に対し、…支払済みの管理費等…のうち「不在管理費月額1000円」に相当する部分は、同支払義務を定める管理規約が公序良俗違反(憲法14条等)、建物区分所有法31条1項後段に違反するものとして無効であって、原告が法律上の原因なく利得していることになるから、不当利得返還…を求めた事案である。

…被告は、管理規約における不在管理費月額1000円の支払義務を定める規定は公序良俗違反又は建物区分所有法31条1項後段所定の同意を欠くものとして無効というべきである旨主張する。
しかしながら、区分所有者が本件マンションに居住していない場合には、各種事務連絡や所要の対応を求める際において、居住者区分所有者の場合に比して余分の経費を要する場合があることは容易に想定し得るところであり、本件の費用が月額1000円(不在管理費を除く管理費等の概ね6パーセント程度)にとどまること、被告自身前訴においてかかる主張はしておらず、本訴訟の最終盤において初めてかかる主張を行っていること等も併せ考えれば、かかる実費相当程度の負担を求める規定が憲法14条に違反する等、公序良俗に反する内容を定めたものとは到底言えないし、「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすとき」に該当するものともいえないというべきである。