管理者

管理者は、法人でない管理組合において区分所有者を代理し、管理組合の業務を執行する機関です。

管理組合法人には理事・監事を置くことになっていますが(区分所有法49条1項、50条1項)、法人でない管理組合の役員については、区分所有法には規定がありません。

もっとも、標準管理規約(単棟型)では、管理組合の役員として、理事長、副理事長、会計担当理事、理事、監事を置き(35条1項)、理事長が区分所有法の定める管理者とされています(38条2項)。

なお、標準管理規約(単棟型)38条2項のような規定がなくても、理事長は管理者になると考えられます(東京地裁平成2年5月31日)。

<東京地裁平成2年5月31日>

区分所有建物の管理についての区分所有法の趣旨は、このような区分所有建物の管理は、区分所有者全員を構成員とする団体である管理組合が主体となって行うものであり、その管理組合の管理業務の執行者として管理者を置くものとしていると解される(区分所有法3条)。
すなわち、管理者は、管理の主体である管理組合の業務執行者であり、対外的には管理組合を代表する者として位置付けられているものと解される。
したがって、区分所有者集会において、従来なかった任意の組織体である管理組合が設立され、その業務を執行する理事長が選任された場合には、特段の事情のない限り、理事長を管理者とする旨の議決があったものと解するのが相当である。
本件の管理組合設立総会においても、従来の管理者の管理に不満を持った区分所有者が管理主体となるべき管理組合を設立し、その業務執行者として理事長を選任したのであるから、理事長の選任により、理事長を管理者とする議決をしたものと認めるのが相当である。

管理者の権利・義務

管理者は、共用部分・区分所有者が共有(準共有)する建物の敷地や共用部分以外の附属施設(区分所有法21条)を保存し、集会の決議を実行し、規約で定めた行為をする権利を有し、義務を負います(区分所有法26条1項)。

共用部分等の保存

管理者には、 共用部分・区分所有者が共有(準共有)する建物の敷地や共用部分以外の附属施設(区分所有法21条) を保存する権利・義務があります。

保存とは、共用部分等を維持すること(滅失・毀損を防止して現状の維持を図ること)です。

管理者ができる保存行為は緊急を要するか、比較的軽度の維持行為に限られると考えられます。

なお、共用部分等の保存行為は、各区分所有者も行うことができます(区分所有法18条1項但書・21条)。

集会の決議の実行

集会の決議を実行とは、集会の決議に基づいて決議の内容を具体的に執行することです。

例えば、共用部分の清掃を業者に委託することが集会の決議で決められた場合、管理者は、集会の決議に基づいて業者との間で業務委託契約を締結します。

規約で定めた行為

規約の定めとしては、共用部分等の管理(区分所有法18条1項本文・21条)の全部または特定の事項を集会の個別の決議によることなく管理者に委ねる定め、共用部分等の管理を理事会等に委ねる定め(区分所有法18条2項)などがあります。

管理者の代理権

効果

管理者には、その職務(共用部分等の保存・集会の決議の実行・規約で定めた行為)に関して、区分所有者を代理する権限があります(区分所有法18条2項前段)。

したがって、管理者は区分所有者の代理人として法律行為を行い、管理者が行った法律行為の効果は区分所有者全員に帰属します。

この点、権利能力なき社団の代表者が社団の名義において取得した権利・義務は、社団の構成員全員に総有的に帰属するとされています(最高裁昭和32年11月14日、最高裁昭和48年10月9日)。

<最高裁昭和32年11月14日>

権利能力なき社団の財産は、実質的には社団を構成する総社員の所謂総有に属するものであるから、総社員の同意をもって、総有の廃止その他右財産の処分に関する定めのなされない限り、現社員及び元社員は、当然には、右財産に関し、共有の持分権又は分割請求権を有するものではない…。

<最高裁昭和48年10月9日>

権利能力なき社団の代表者が社団の名においてした取引上の債務は、その社団の構成員全員に、一個の義務として総有的に帰属するとともに、社団の総有財産だけがその責任財産となり、構成員各自は、取引の相手方に対し、直接には個人的債務ないし責任を負わない…。

代理権の範囲

管理者の代理権の範囲は、次のとおりです。

  • 管理者の職務に関するもの(区分所有法26条2項前段)
  • 共用部分等についてする損害保険契約(区分所有法18条4項・21条)に基づく保険金額の請求・受領(区分所有法26条2項後段)
  • 共用部分等について生じた損害賠償金・不当利得による返還金の請求・受領(区分所有法26条2項後段)

管理者の代理権は、代理できる事項・範囲や代理の方法等を規約・集会の決議によって制限できます。

もっとも、管理者の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することはできません(区分所有法26条3項)。

「善意の第三者」とは、区分所有者以外の者で、代理権に加えられた制限について知らず、かつ、その制限によって利益を害される者をいいます。

管理者の職務

管理者の職務は、共用部分等の保存・集会の決議の実行・規約で定めた行為です(区分所有法26条2項前段)。

損害保険契約に基づく保険金額の請求・受領

共用部分や区分所有者の共有(準共有)に属する建物の敷地や附属施設について損害保険契約を締結することは、共用部分の管理に関する事項とみなされ(区分所有法18条4項・21条)、集会の決議で決めることができます。

集会の決議により損害保険契約を締結することになった場合、管理者が、区分所有者を代理して保険会社と損害保険契約を締結します(区分所有法26条1項・2項前段)。

そして、管理者が保険会社と締結した損害保険契約の効果は、区分所有者の全員に帰属します。

そうすると、本来、各区分所有者が保険会社に対して保険金額を請求・受領できることになりますが、管理者が区分所有者の全員を代理して保険会社に対して一括して保険金額を請求・受領できることにすることで、共用部分等の修復・復旧を円滑に進めるため、管理者に損害保険契約に基づく保険金額の請求・受領する代理権が認められました。

損害賠償金の請求・受領

建築工事の不備や第三者の不法行為等により共用部分等に損害が生じた場合、損害賠償請求権(民法415条・709条等)は可分債権であることから(金銭債権等の分けることが可能な債権は原則として可分債権となります。)、各区分所有者にその持分に応じて分割的に帰属します。

そうすると、本来、各区分所有者がそれぞれ損害賠償請金の請求・受領できることになりますが、各区分所有者が請求・受領できる額は少額にすぎない可能性が高く、受領した損害賠償金により共用部分等の損害の回復を図る必要性があります。

そこで、管理者が区分所有者の全員を代理して加害者に対して一括して損害賠償金を請求・受領できることにすることで、共用部分等の修復・復旧を円滑に進めるため、管理者に損害賠償金の請求・受領する代理権が認められました。

不当利得による返還金の請求・受領

共用部分等の不法占拠された場合、使用利益についての不当利得返還請求権(民法703条)は可分債権であることから、各区分所有者にその持分に応じて分割的に帰属します。

そうすると、本来、各区分所有者がそれぞれ不当利得による返還金の請求・受領できることになりますが、各区分所有者が請求・受領できる額は少額にすぎない可能性が高く、受領した返還金により共用部分等の損害の回復を図る必要性があります。

そこで、管理者が区分所有者の全員を代理して加害者に対して一括して損害賠償金を請求・受領できることにし、共用部分等の管理を円滑に進めるため、管理者に不当利得による返還金の請求・受領する代理権が認められました。

なお、 区分所有者が集会の決議や規約の定めによらず共用部分を賃貸して賃料を得た場合に、各区分所有者による共用部分を賃貸した区分所有者に対する共用部分の持分割合に応じた不当利得返還請求を認めなかった裁判例について、こちらのページで説明します。

管理者の当事者適格

訴訟において問題となる法律関係について、自ら訴訟の原告又は被告となり、判決を受けることのできる資格を当事者適格といいます。

管理者は、規約又は集会の決議により、その職務(損害保険契約に基づく保険金額・共用部分等について生じた損害賠償金や不当利得による返還金の請求・受領を含みます。)に関し、区分所有者のために、原告又は被告となることができます(区分所有者26条4項)。

「原告又は被告となる」とは、管理者が、区分所有者の代理人としてではなく、自ら訴訟の当事者となるという意味です。

管理者には、その職務に関して区分所有者を代理する権限がありますが(区分所有法26条2項)、この代理権には訴訟追行権が含まれるかは明らかでありません。

もっとも、区分所有者全員を代理する立場にある管理者が、区分所有者全員のために訴訟を追行することが望ましいと考えられます。

そこで、区分所有法26条4項により、規約又は集会の決議による特別の授権がある場合には、訴訟追行権があることを明確にしました。

この点、規約では、管理者にその職務について包括的に訴訟追行権を付与することも、特定の事項に限定して訴訟追行権を付与することもできますが、集会の決議では、特定の事項ごとに訴訟追行権を付与する必要があると考えられます。

そして、管理者が当事者として訴訟を追行した場合、判決の効力は区分所有者全員に及びます(民事訴訟法115条1項2号)。

なお、区分所有法26条4項では、(民事訴訟において)「原告又は被告となる」ことのみが規定されていますが、管理者は、仮差押え・仮処分、民事執行、民事調停などの当事者となることもできると考えられます。