規約の設定・変更により、駐車場使用料を有償にしたり、駐車場使用料を値上げすることが、一部の区分所有者の権利に「特別の影響を及ぼす」場合、その区分所有者の承諾を得なければなりません(区分所有法31条1項後段)。
これに対し、「特別の影響を及ぼす」場合でなければ、一部の区分所有者が反対をしたとしても、規約の設定・変更により、駐車場使用料を有償化したり、駐車場使用料を値上げすることができます。
特別の影響の意味
区分所有法31条1項後段の「特別の影響を及ぼす」とは、規約の設定・変更などの必要性・合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超える場合をいいます(最高裁平成10年10月30日)。
また、直接に規約の設定・変更などではなく、規約の定めに基づき、集会決議による細則の制定をもって使用料が増額された場合にも、区分所有法31条1項後段の規定が類推適用されます(前掲最高裁平成10年10月30日)。
裁判例によれば、社会通念上相当な駐車場使用料の額の限度で規約の設定・変更などは有効となり、一定範囲内における駐車場使用料の増額はできると考えられます。
なお、駐車場使用権を消滅させる場合については、こちらのページで説明します。
駐車場使用料の有償化に関する裁判例
駐車場使用料の有償化に関し、以下のような裁判例があります。
<最高裁平成10年11月20日>
有償化決議については、従来無償とされてきた専用使用権を有償化し、専用使用権者に使用料を支払わせることは、一般的に専用使用権者に不利益を及ぼすものであるが、有償化の必要性及び合理性が認められ、かつ、設定された使用料が当該区分所有関係において社会通念上相当な額であると認められる場合には、専用使用権者は専用使用権の有償化を受忍すべきであり、そのような有償化決議は専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではないというべきである。
また、設定された使用料がそのままでは社会通念上相当な額とは認められない場合であっても、その範囲内の一定額をもって社会通念上相当な額と認めることができるときは、特段の事情がない限り、その限度で、有償化決議は、専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではなく、専用使用権者の承諾を得ていなくとも有効なものであると解するのが相当である(最高裁…平成…10年10月30日第二小法廷判決参照)。
<東京高裁平成13年1月30日(前掲最高裁平成10年11月20日の差戻し後の判決)>
控訴人は、その営業のため、長年にわたって共有部分となっている南側駐車場…につき、これを無償で使用してきており、他の区分所有者との関係で公正さを欠く結果となっているということができるから、有償化する必要性と合理性が認められる。
そこで、本件定期総会における有償化決議によって定められた各専用使用料の額が社会通念上相当なものか否かについて検討する。
…本件マンションは住居及び店舗併用型のマンションであって、控訴人による専用使用権の取得を考慮して分譲価格が設定され、本件マンションの区分所有者らは、本件マンションの一階部分において、控訴人がサウナ、理髪店等を営業すること及びその営業に必要な駐車場等の設備を控訴人が自ら費用を負担して設置し、その敷地及び床部分を無償で使用することを承知の上、各区分所有建物を購入し、現に、控訴人はこれまで無償で右設備を使用してきたのである。
これらの事情を考慮すると、本件定期総会における有償化決議によって、前記認定したような本件区分所有関係の経過を前提としていない純粋の経済活動としての賃貸借における通常の賃料相場等を参考にして、多額の使用料を控訴人に一挙に課するのは過大な要求というべきである。
これによる控訴人の負担増は大きく、そのため事業上営業を断念せざるを得ないような事態を招来するに至っているものである。
したがって、有償化決議によって定められた各専用使用料の額は、社会通念上相当な額とは認め難い。
本件では、右に挙げた事情に加えて、問題とされている各設備が、駐車場を含めていずれも控訴人の営業上必要なものと認められること、その管理は控訴人において行っていて、当該各共用部分の専用使用によって住居部分の区分所有者らの本件マンションの利用に特に支障があるとは認められないことなども、本件区分所有関係における事情として考慮する必要がある。
そこで、以上を前提に、住居及び店舗併用型マンションである本件マンションにつき、住居部分の区分所有者と店舗部分の区分所有者の利害をどのように調整すべきかという観点から、どの程度の額であれは専用使用料として社会通念上相当であるかを検討する。
…本件マンションの区分所有者らは、本件マンションには駐車場がないため、昭和48年ころは5000円程度の賃料を支払い、平成元年ころ以降は平均2万5000円程度の賃料を負担して近隣に駐車場を求めてきたこと、現在、近隣にある駐車場の月額賃料は、2万2000円ないし2万8000円程度であり、平成4年ころは2万5000円程度が相場であったことが認められる。
しかし、本件において、南側駐車場を有償化する必要があるとしても、その額を近隣の駐車場の賃貸料を基準とするのは、前述したとおり相当でない。
南側駐車場は、マンホールがあり、控訴人の営業する店舖の出入口もあって、しかも避難通口となっている部分である。
したがって、南側駐車場を他に賃貸して賃料収人を得ることは事実上不可能といってよい。
加えて、本件マンションの分譲に当たっては、控訴人の専用使用権があることを考慮して若干低めの価格で分譲されたことなどの本件区分所有関係に係る前記諸事情をも総合考慮すると、南側駐車場の専用使用料としては合計月額1万円とするのが相当である。
駐車場使用料の値上げに関する裁判例
駐車場使用料の値上げに関し、以下のような裁判例があります。
<最高裁平成10年10月30日>
(一)本件の専用使用権は、区分所有者全員の共有に属するマンション敷地の使用に関する権利であるから、これが分譲された後は、管理組合と組合員たる専用使用権者との関係においては、法の規定の下で、規約及び集会決議による団体的規制に服すべきものであり、管理組合である被上告人は、法の定める手続要件に従い、規約又は集会決議をもって、専用使用権者の承諾を得ることなく使用料を増額することができるというべきである。
このことは、新規約の下におけるように、駐車場の使用が管理組合と専用使用権者との間の「駐車場使用契約」という形式を用いて行われている場合であっても、基本的に異なるところはないと解するのが相当である。
(二)そして、法31条1項後段は、区分所有者間の利害を調整するため、「規約の設定、変更は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない」と定めているところ、右の「特別の影響を及ぼすべきとき」とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいうものと解される。
これを使用料の増額についていえば、使用料の増額は一般的に専用使用権に不利益を及ぼすものであるが、増額の必要性及び合理性が認められ、かつ、増額された使用料が当該区分所有関係において社会通念上相当な額であると認められる場合には、専用使用権者は使用料の増額を受忍すべきであり、使用料の増額に関する規約の設定、変更等は専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではないというべきである。
また、増額された使用料がそのままでは社会通念上相当な額とは認められない場合であっても、その範囲内の一定額をもって社会通念上相当な額と認めることができるときは、特段の事情がない限り、その限度で、規約の設定、変更等は、専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではなく、専用使用権者の承諾を得ていなくとも有効なものであると解するのが相当である。
そして、増額された使用料が社会通念上相当なものか否かは、当該区分所有関係における諸事情、例えば、⑴当初の専用使用権分譲における対価の額、その額とマンション本体の価格との関係、⑵分譲当時の近隣における類似の駐車場の使用料、その現在までの推移、⑶この間のマンション駐車場の敷地の価格及び公租公課の変動、⑷専用使用権者がマンション駐車場を使用してきた期間、⑸マンション駐車場の維持・管理に要する費用等を総合的に考慮して判断すべきものである。
(三)さらに、本件のように、直接に規約の設定、変更等によることなく、規約の定めに基づき、集会決議により管理費等に関する細則の制定をもって使用料が増額された場合においては、法31条1項後段の規定を類推適用して区分所有者間の利害の調整を図るのが相当である。
(四)しかるに、原審は、使用料増額に関する前記集会決議が上告人らの専用使用権に「特別の影響」を及ぼすものではないとする理由として、区分所有者相互間における駐車場利用の公平化・適正化と増設駐車場の使用料額との均衡を図るために使用料が増額されたことを挙げるのみであって、前記のような観点から、月額700円から月額4000円等への増額が社会通念上相当なものか否か、さらには、もし月額4000円等が相当な額と認められない場合には幾らへの増額であれば相当といえるかについて、所要の審理判断を尽くしていないといわなければならない。
<東京地裁平成20年4月11日>
原告は、…臨時総会において、議決権総数の4分の3以上の賛成により、旧管理規約を新管理規約に改定した。
新管理規約においては、…一部事務所部分前面の敷地の専用使用料は1か月2万円(従前は1か月260円)、管理費は1か月9750円、修繕積立金6690円と各定められた。
原告は、主な収入が管理費であるのに、平成14年以降、管理費及び修繕積立金を段階的に減額している一方で、自転車置場や一部事務所部分前面の敷地の専用使用料の値上げをしているのであって、専用使用権を有する者の犠牲のもとに他の区分所有者の利益を企図したとみる余地も十分にある。
しかしながら、他方で、近隣駐車場の賃料相場からみて、一部事務所部分前面の敷地の専用使用料が低額にすぎることは否定できない。
しかも、被告及びその前区分所有者は、本件マンションの分譲以来、長期(約20年間)に亘り、低額(少なくとも月額260円以下)の専用使用料を享受してきて、105号室の区分所有権取得時にその対価を支払っているとしても…、その間、一部事務所部分前面の敷地の固定資産税、都市計画税の支払いや、一部事務所部分前面の敷地及び簡易屋根の維持管理費用の支払いを免れているのであり、原告が一部事務所部分前面の敷地の鉄部塗装費用を負担していることを考慮すると、105号室の区分所有者は、単に、敷地の一部を専用使用するという以上に他の区分所有者の経済的負担のもとに一部事務所部分前面の敷地を専用使用していたのであって、他の区分所有者との間の衡平を欠く状態に至っているというべきであるから、これらの事情を総合すると一部事務所部分前面の敷地の専用使用料について、増額の必要性及び合理性が認められる。
…次に、相当使用料についてみるに、一部事務所部分前面の敷地の固定資産税、都市計画税は、面積割した場合は、月額1816円(平成18年度)であって、この額以上の使用料を徴収することは当然であること、駐輪場(13台)は1台当たり月額300円であり、駐輪場の面積と一部事務所部分前面の敷地の面積がほぼ同等と認められること…、駐輪場は従前は無償であったこと、近隣駐車場の相場等を総合すると、固定資産税、都市計画税の3倍程度の月額6000円をもって社会通念上相当な額と認める。
…そうすると、…臨時総会において、改定された新管理規約は、月額6000円の範囲で効力を有する。
<東京地裁平成28年9月15日>
原告の…臨時総会において、従前月額1500円であった本件駐車場の維持管理費を、区画番号№1については月額2万3250円、区画番号№3については月額2万5950円、区画番号№6については月額1万2720円に増額する…議案を承認する決議がされた(以下「本件増額決議」という。)。
…本件増額決議に係る増額の必要性及び合理性並びに増額された使用料が社会通念上相当な額と認められるか否かにつき検討する。
ア 本件駐車場の分譲時に支払われた対価の額は、屋内部分(区画番号№1及び№3)については各120万円、屋外部分(区画番号№6)については80万円であったところ、これは居室部分の分譲価格とは無関係に定められたものであった。
イ 被告Y2は、昭和62年頃まで本件駐車場の区画番号№1をP1から賃借していたところ、その賃料は当初は月額6000円ないし8000円程度、最終的には2万円程度であった旨を供述しており、これを前提とすれば、本件マンション分譲当時の近隣の一般的な駐車場の使用料は上記当初の賃料額程度であったと考えられる。
これに対し、本件増額決議がされた時期においては月額2万5000円程度の使用料が設定された駐車場も近隣に存在しており、使用料の相場は相当程度値上がりしていたものと考えられる。
ウ 本件駐車場の専用使用権設定時には、購入者は専用使用部分の面積に応じた必要経費(固定資産税、都市計画税等)を原告に納入することとされているところ、上記規定は専用使用権の法的性質に照らしても合理的なものといえる。
そして、1平方メートル当たりの固定資産税が年額932円、都市計画税が年額399円であることについては、被告らも特段争っていない。
…エ 被告Y2は昭和62年頃から、被告Y1は平成7年頃から、被告Y3は平成3年頃から、専用使用権に基づき本件駐車場を使用しているところ、上記各期間における相当賃料額を6000円として算定しても、使用期間に相当賃料額を乗じた額は、専用使用権設定時に支払われた対価の額(なお、被告らが前権利者から専用使用権を取得した際に支払われた代金額は、当事者間の合意により決定されたものであるから、上記算定において考慮すべきではない。)を明らかに上回っている。
オ(ア) 前記のとおり本件駐車場の固定資産税及び都市計画税相当額である年額1平方メートル当たり1331円については被告らの負担とすることが合意されており、これに専用使用面積を乗じると、区画番号№1については月額2386円、同№3については月額2872円、同№6については月額1390円となる。
(イ) 本件駐車場が本件マンションの一階部分に所在し、建物敷地と一体的に使用されている状況等に照らせば、共有部分のうち本件駐車場については専用使用権者らのみが管理費・修繕積立金を負担し、その余の部分については区分所有者全員が専有面積に応じて負担するとする原告主張の算定方法は相応の合理性を有するものというべきであり、これが二重負担を課すものであるとする被告Y1及び被告Y2の主張には理由がない。
(ウ) また、…本件駐車場については日常的な点検の他、塗装作業や漏水部分への対応作業等が行われていることが認められる。
上記作業には今後も継続的に費用支出が見込まれ、かつ、本件マンションの老朽化に伴い支出額の増大も見込まれることなどの事情に加え、近隣駐車場の相場(前記イ)や、被告らが当初支払対価に応じた使用利益を十分に得ていると考えられること(前記エ)なども考慮すれば、屋内部分については月額1万円、屋外部分については月額5000円の維持管理費を加算することは、社会通念上の相当性を逸脱するものではないというべきである。
…以上の事情を総合すれば、本件増額決議に係る増額については、必要性及び合理性があり、かつ、増額された使用料も社会通念上相当な額であったと認められるから、同決議は被告らの承諾を要することなく有効であ…る。