区分所有法9条は、「建物の設置又は保存に瑕疵があることにより他人に損害を生じたときは、その瑕疵は、共用部分の設置又は保存にあるものと推定する」と規定しています。
民法717条との関係
土地の工作物の設置・保存に瑕疵があることによって、他人に損害を与えた場合、工作物の占有者は、被害者に対して損害を賠償する責任を負います(民法717条1項本文)。
また、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をした場合、所有者が、被害者に対して損害を賠償する責任を負います(民法717条1項但書)。
マンション以外の建物の場合、建物の占有者・所有者が誰であるかはあまり問題にはなりません。
もっとも、マンションの場合、建物が専有部分と共用部分に分かれており(区分所有法2条3項・4項)、専有部分に瑕疵がある場合には専有部分の占有者・所有者が責任を負い、共用部分に瑕疵がある場合には共用部分の占有者・所有者が責任を負うことになります。
ところが、瑕疵が専有部分にあるのか共用部分にあるのか明らかでない場合(建物の瑕疵により水漏れがあったが、その瑕疵が建物のどの部分にあるのか明らかでないような場合)も少なくありません。
にもかかわらず、被害者が専有部分と共用部分のどちらに瑕疵があるのかを立証しなければならないとすると、被害者は占有者にも所有者にも損害賠償請求できず、被害者に酷な結果となるおそれがあります。
そこで、被害者の立証責任を軽減するため、民法717条の特則として区分所有法9条を規定し、瑕疵が共用部分にあると推定しました。
建物の設置・保存の瑕疵
建物の瑕疵とは、建物が通常備えているべき安全性を欠いていることをいいます。
建物の建設当時から瑕疵の存在する場合が「設置の瑕疵」、建設後の維持管理において瑕疵が生じた場合が「保存の瑕疵」ですが、両者を厳密に区別する必要はありません。
「建物」の瑕疵には、「建物の附属物」(区分所有法2条4項、建物に附属し、構造上・効用上その建物と不可分の関係にあるもの)の瑕疵も含まれます。
共用部分の設置・保存にあると推定される場面
瑕疵のある部分が明らかでない場合
被害者は、損害賠償を請求するにあたり、建物に瑕疵があることを立証する必要がありますが、瑕疵のある部分が明らかでない場合、区分所有法9条によって瑕疵は共用部分にあると推定されます。
これに対し、共用部分の占有者・所有者は、瑕疵が特定の専有部分にあることを立証すれば、責任を免れることになります。
瑕疵のある部分が専有部分となるか共用部分となるか明らかでない場合
区分所有法9条は、瑕疵のある部分が明らかでない場合についての規定です。
もっとも、瑕疵のある部分は明らかであるものの、その部分が専有部分と共用部分のどちらに分類されるのか明らかでない場合(配水管の特定の部分に瑕疵があったことは明らかだが、その部分が専有部分なのか共用部分なのか明らかでないような場合)もあります。
このような場合にも、区分所有法9条を適用できるとする見解もあります。
責任を負う主体
瑕疵が専有部分にある場合
専有部分の占有者・所有者は専有部分の区分所有者であるため(専有部分を賃貸している場合は賃借人も占有者になります。)、専有部分の区分所有者が賠償責任を負います。
瑕疵が共用部分にある場合
共用部分の占有者・所有者について、管理組合であるとする見解と区分所有者全員であるとする見解があります(東京高裁平成29年3月15日)。
<東京高裁平成29年3月15日>
本件建物の共用部分の占有者は、管理組合たる第1審原告ではなく、本件建物の区分所有者の全員である。第1審原告は、区分所有法3条の団体(管理組合)であり、本件建物の共用部分を管理しているが、管理責任があるところに占有があるとはいえないのであり、管理組合が共用部分の占有者(民法717条1項の第一次的責任主体)であるとみるには無理がある。したがって、第1審原告が民法717条1項の占有者であることを前提とする第1審被告の工作物責任の主張は、理由がないことに帰する。