マンションを賃貸した区分所有者は賃借人が発生させた騒音の責任を負いますか

騒音を発生させている賃借人は、騒音の程度が受忍限度を超えている場合、不法行為に基づく損害賠償責任を負います(民法709条)。

それでは、賃貸人である区分所有者も、賃借人が発生させた騒音について不法行為に基づく損害賠償責任を負うのでしょうか。

区分所有者には、賃借人の違法な使用状況を是正する義務があるかが問題となります。

この点、賃貸人が是正措置を採りさえすれば違法な使用状態が除去されるのに、賃貸人がその状況に対し何らの措置を取らずに放置した結果、他人に損害が発生した場合、賃借人の違法な使用状況を放置したことが不法行為となることがあります(東京地裁平成17年12月14日、東京地裁平成26年3月25日)。

裁判例については、事案や判断理由の重要な部分を長めに引用しているため、必要に応じて参照してください。

▶東京地裁平成17年12月14日

被告乙原の不法行為責任について[賃借人の責任]

被告乙原は、…を運営し、あるいは…を運営して…、ライブ演奏をさせることにより、本件地下店舗から受忍限度を超えた騒音等を本件店舗に伝播させたものであって、この被告乙原の行為により、原告は後記損害を被っているということができるから、被告乙原は、原告に対し、不法行為責任を負うといわざるを得ない。

…被告丙山両名が被告乙原と共に本件地下店舗から発生している受忍限度を超える違法な騒音等について、原告に対し、不法行為責任を負うか…[賃貸人の責任]

…被告丙山両名は、本件ビルの区分所有者であるが、本件地下店舗を被告乙原に賃貸し、その使用を専ら被告乙原に委ねている。
…ところで、建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)6条1項は、区分所有者に対し、建物の使用に関し、区分所有者の共同の利益に反する行為を禁止しているところ、同項は、同条3項において、区分所有者以外の専有部分の占有者に準用されているから、賃貸人と賃借人はそれぞれが他の居住者に迷惑をかけないよう専有部分を使用する義務を負っているということができる。
しかし、専ら賃借人が専有部分を使用している場合も、賃貸人の前記義務が消滅するものではなく、賃貸人は、その義務を履行すべく、賃借人の選定から十分な注意を払うべきであり、また、賃貸後は、賃借人の使用状況について相当の注意を払い、もし、賃借人が他の居住者に迷惑をかけるような状況を発見したのであれば、直ちに是正措置を講じるべきである。
この点、…本件ビルに係る…使用規則…及び本件地下店舗賃貸借契約によれば、賃貸人は、賃借人が、前記使用規則…に反し、拡声器の使用、その他により高音又は雑音を発し、又は高声を発した場合やその他の使用者に迷惑を及ぼし不快の念を与える行為をした場合、あるいは本件地下店舗賃貸借契約…に反し、賃借人が他の賃借人の専有使用に著しい妨害を与えた場合には、賃貸人は同契約を無催告で解除することができる。
このように、賃貸人は、賃借人が他の居住者に迷惑をかけるような態様で専有部分を使用している場合には、その迷惑行為の禁止、あるいは改善を求めることができると解され、さらには、本件地下店舗賃貸借契約を解除することによって、迷惑な状況を除去しうる立場にあるといえる。
したがって、賃貸人がその是正措置を採りさえすれば、その違法な使用状態が除去されるのに、あえて、賃貸人がその状況に対し何らの措置を取らず、放置し、そのために、他人に損害が発生した場合も、賃借人の違法な使用状況を放置したという不作為自体が不法行為を構成する場合があるというべきである。

…被告丙山両名は、本件地下店舗でライブハウスを営業するに当たり、騒音等につき注意され、開店後も当初から原告から騒音等につき苦情を受け、自らも…で音を聞き本件地下店舗を見て改善すべき点があることを認識し、また、本件地下店舗から発生する騒音等が本件店舗に伝わりやすい構造になっているとの指摘を受けるなどして、本件地下店舗は大音量を発生させるライブ演奏をするには必ずしも十分な騒音等の対策が取られていない状況であることを知っており、その後、被告乙原が防音等の工事を行っても、原告から、騒音等のため、…の集客・営業にも支障を来しているなどの苦情が繰り返されている状況にあることを知っていたということができる。
もちろん、原告の主張する騒音等の程度について疑問があるというのであれば、原告がどのような状態に対し苦情を言うのかの現状把握をすることは容易であった。
そして、被告丙山両名が、被告乙原との本件地下店舗賃貸借契約及び同契約がその遵守を定めている本件ビルの管理規約や使用規則に基づき、賃貸人として、被告乙原に対し、上記契約等に違反しないよう注意し、あるいは既に生じている違反状態の是正を求めるなどし、それでも是正措置がとられないようであれば、前記契約を解除することもでき、それによって違法な使用状態を解消することができた蓋然性が高い。
したがって、被告丙山両名には、区分所有者兼賃貸人として、賃借人である被告乙原が騒音等を発生するライブ演奏を行って、原告の利益を侵害している状況を放置せず、現状を把握して、それを改善・除去する措置を採るなどすべき義務があったということができる。
しかるに、被告丙山両名は、賃借人である被告乙原に防音工事をするように伝達して、同被告が何らかの工事を行っていることで被告丙山両名にはそれ以上の対策を講じる義務はないとし、実際に、被告乙原が行う工事によりどの程度騒音等を低減させていたのか、工事でなく営業の方法に問題はないのか等現状が改善されない理由につきさしたる検討をすることもなく、また、被告乙原に対して適切な改善措置を取らせることもせず、結果として、前記義務に違反し、被告乙原の、不十分な騒音等の対策のままにライブ演奏を繰り返すという違法な使用を放置し、そのため、本件地下店舗のライブ演奏による受忍限度を超える騒音等が…に伝播するという結果を生じせしめ、原告に後記のとおりの損害を与えたということができる。

したがって、被告丙山両名にも、本件地下店舗におけるライブ演奏により受忍限度を超える騒音等が本件店舗に伝播したことにつき、過失があるというべきであり、同被告らも、不法行為責任を負うというべきである。

▶東京地裁平成26年3月25日

建物の区分所有等に関する法律6条1項は、区分所有者に対し、建物の使用に関し、区分所有者の共同の利益に反する行為を禁止しているところ、同項は、同条3項において、区分所有者以外の専有部分の占有者に準用されているから、区分所有者と区分所有者以外の専有部分の占有者…はそれぞれが他の居住者に迷惑をかけないよう専有部分を使用する義務を負っているということができる。
そして、専ら占有者が専有部分を使用している場合も、区分所有者の上記義務が消滅するものではなく、区分所有者は、占有者の使用状況について相当の注意を払い、もし、占有者が他の居住者に迷惑をかけるような状況を発認識し、又は認識し得たのであれば、その迷惑行為の禁止、あるいは改善を求めるなどの是正措置を講じるべきであり、区分所有者がその是正措置を執りさえすれば、その違法な使用状態が除去されるのに、あえて、区分所有者がその状況に対し何らの措置を取らず、放置し、そのために、他人に損害が発生した場合は、占有者の違法な使用状況を放置したという不作為自体が不法行為を構成する場合があるというべきである。