区分所有法57条と標準管理規約(単棟型)67条の違い

区分所有法57条は、区分所有者による共同の利益(区分所有法6条1項)に反する行為の停止等の請求について規定しています。

他方、標準管理規約(単棟型)67条は、理事長による法令等に違反する行為や共同生活の秩序を乱す行為の是正等のために必要な勧告等について規定しています。

区分所有法57条と標準管理規約(単棟型)67条は内容が似ていますが、以下のような違いもあります。

区分所有法57条と標準管理規約(単棟型)67条

区分所有法57条

1 区分所有者が第6条第1項に規定する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、区分所有者の共同の利益のため、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求することができる。
2 前項の規定に基づき訴訟を提起するには、集会の決議によらなければならない。
3 管理者又は集会において指定された区分所有者は、集会の決議により、第1項の他の区分所有者の全員のために、前項に規定する訴訟を提起することができる。
4 前3項の規定は、占有者が第6条第3項において準用する同条第1項に規定する行為をした場合及びその行為をするおそれがある場合に準用する。

*区分所有法6条1項
 区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。

標準管理規約(単棟型)67条

1 区分所有者若しくはその同居人又は専有部分の貸与を受けた者若しくはその同居人(以下「区分所有者等」という。)が、法令、規約又は使用細則等に違反したとき、又は対象物件内における共同生活の秩序を乱す行為を行ったときは、理事長は、理事会の決議を経てその区分所有者等に対し、その是正等のため必要な勧告又は指示若しくは警告を行うことができる。
3 区分所有者等がこの規約若しくは使用細則等に違反したとき、又は区分所有者等若しくは区分所有者等以外の第三者が敷地及び共用部分等において不法行為を行ったときは、理事長は、理事会の決議を経て、次の措置を講ずることができる。
⑴ 行為の差止め、排除又は原状回復のための必要な措置の請求に関し、管理組合を代表して、訴訟その他法的措置を追行すること
⑵ 敷地及び共用部分等について生じた損害賠償金又は不当利得による返還金の請求又は受領に関し、区分所有者のために、訴訟において原告又は被告となること、その他法的措置をとること

*2項・4項~6項は省略。

主体

区分所有法57条は、区分所有者の全員又は管理組合法人が、共同の利益に反する行為の停止等の請求をできるとしています。

これに対し、標準管理規約(単棟型)67条は、理事長が、法令等に違反する行為や共同生活の秩序を乱す行為の是正等のために必要な勧告等をできるとしています。

標準管理規約(単棟型)67条が、勧告等を行う者を理事長としたのは、個々の組合員による勧告等は客観性を欠くことがあるため、勧告等を行うかどうかやその内容について、理事会において検討したうえで理事長が行うことが客観性を担保できると考えられるためです。

訴訟における原告

区分所有法57条の場合、「管理者又は集会において指定された区分所有者」が原告となります(区分所有法57条3項)。

これに対し、標準管理規約(単棟型)67条の場合、管理組合(東京地裁平成8年7月5日、東京高裁平成19年11月28日)又は管理者(区分所有法26条4項)が原告となります。

<東京地裁平成8年7月5日>

本件の飼育差止め請求は、原告が、被告による犬の飼育が本件規約に基づき定められた本件規定に違反するとして、その差止めを求めるものであるところ、規約は区分所有者に対して効力を生ずるのであり(区分所有法30条、46条参照)、区分所有者は規約において定められた義務を遵守しなければならないが、規約は管理組合内部の規範であるから、そこに定められた義務は区分所有者の管理組合に対する義務であり、これに対応する権利は法人格なき社団としての管理組合に帰属する。
したがって、管理組合は、民訴法46条に基づき自己の名において差止め訴訟を提起することができる。

<東京高裁平成19年11月28日>

管理規約は、区分所有者の団体の内部規範であるから、そこに定められた区分所有者の義務は、区分所有者が団体としての管理組合(法人格なき社団又は管理組合法人)に対して負う義務であり、これに対応する権利は、管理組合に帰属するものと解されるものである。
したがって、管理規約において、区分所有者の義務が法的拘束力を持つものとして具体的に規定されている場合には、管理組合は、当該規定を根拠に、当該義務の履行を求める権利を有し、履行されない場合は訴訟を提起できるのである(ただし、管理組合に法人格がない場合は、民訴法29条に基づき提起することになる。)。

総会決議の要否

区分所有法57条の場合、総会決議が必要です(区分所有法57条2項・3項)。

また、理事長が管理組合を代表して訴訟提起するには、規約に定めがない限り、総会決議が必要であると考えられますが、標準管理規約(単棟型)67条3項において、「行為の差止め…に関し、管理組合を代表して、訴訟その他の法的措置を追行すること」と定められていることから、総会の決議は不要であり、理事会の決議があれば訴訟を提起できると考えられます。

相手方

区分所有法57条は、請求の相手方を区分所有者と占有者としています(57条1項・4項)。

これに対し、標準管理規約(単棟型)67条1項は、請求の相手方を区分所有者とその同居人専有部分の貸与を受けた者とその同居人としています。

したがって、請求の相手方となる者の範囲は、標準管理規約(単棟型)の方が広く設定されています。

区分所有者や占有者の同居人(例えば、夫が区分所有者である場合の妻)は、独立の占有者ではなく占有者を補助しているにすぎない占有補助者と考えられます。

占有補助者が共同生活の秩序を乱す行為等を行った場合、占有者(夫)に対して請求をすれば足り、占有補助者(妻)まで相手方とする必要までありませんが、標準管理規約(単棟型)67条は、占有補助者も相手方になることを明示することで、占有補助者が共同生活の秩序を乱す行為等を行うことを抑制することを目的にしていると考えられます。

対象となる行為

区分所有法57条は、共同の利益に反する行為を請求の対象としています。

これに対し、標準管理規約(単棟型)67条は、①法令に違反する行為、②規約・使用細則等に違反する行為、③共同生活の秩序を乱す行為を対象としています。

②規約・使用細則等に違反する行為には、区分所有法57条の「共同の利益に反する行為」を具体的に明文化した事項(絶対的禁止事項)と、「共同の利益に反する行為」とまではいえないものの、規約や使用細則等で特に禁止した事項(相対的禁止事項)が含まれています。

また、③共同生活の秩序を乱す行為は、①法令に違反する行為や②規約・使用細則等に違反する行為にも該当するものが多いと考えられます。

したがって、対象となる行為の範囲は、相対的禁止事項が含まれている分だけ標準管理規約(単棟型)の方が広く設定されています。

絶対的禁止事項に違反する行為の差止訴訟を行う場合、区分所有法57条により共同の利益に反する行為であることを主張・立証するよりも、標準管理規約(単棟型)67条により違反行為が管理規約や使用細則等で具体的かつ明確に禁止されている行為に該当することを主張・立証する方が容易であることが多いと考えられます。

また、相対的禁止事項に該当する行為については、その行為を禁止することを規約や使用細則等で、具体的かつ明確に規定しておけば、規約に基づき訴訟を提起することもできることになります(標準管理規約(単棟型)67条3項)。

訴訟の際の手続き

区分所有法57条では、共同の利益に反する行為として差止請求等の訴訟を提起するには、個々の事案ごとに、訴訟提起についての意思決定と管理者である理事長に対する訴訟を追行することの授権について、総会の決議が必要であると考えられます。

これに対し、標準管理規約(単棟型)67条では、共同生活の秩序を乱す行為等に対して差止請求等の訴訟を提起するには、総会の決議までは必要ではなく、理事会の決議で足りると考えられます。

理事会の決議により訴訟を提起できるとしたのは、総会の決議が必要であるとすると、共同生活の秩序を乱す行為等に対して迅速な対応ができないおそれがあると考えられるためです。

したがって、標準管理規約(単棟型)67条に基づく差止請求訴訟のほうが迅速に行うことができると考えられます。