組合員は管理組合に対して組合員名簿の閲覧を請求できますか

区分所有法では、組合員名簿の閲覧については定められていません。

もっとも、標準管理規約では、理事長は、会計帳簿・什器備品台帳・組合員名簿・その他の帳票類を作成して保管し、組合員・利害関係人の理由を付した書面による請求があった場合、これらを閲覧させなければならないと定められています(64条1項前段)。

管理規約で組合員名簿の閲覧を認めている場合、理事長は、正当な理由がなければ、組合員名簿の閲覧を拒否することできません。

正当な理由があるのは、次のような場合です。

  • 深夜・早朝・休日など管理業務の日時以外の請求
  • 無用の重複請求など濫用と認められる請求

以下、組合員名簿の閲覧が問題となった裁判例を紹介します。

組合員名簿の閲覧と個人情報保護

組合員名簿の閲覧を認める規約は、個人情報保護の観点からも無効ではないとした裁判例があります(大阪高裁平成28年12月9日)。

なお、一般社団法人法では、社員は、一般社団法人の業務時間内は、いつでも、社員名簿の閲覧・謄写の請求ができるとされています(32条2項前段)。

▶大阪高裁平成28年12月9日

…控訴人らが被控訴人に対し、本件名簿の閲覧を求める権利を有することは、本件規約46条から明らかである。
…被控訴人は、個人情報保護の観点から、本件規約46条が無効であると主張する。
しかし、国土交通省が定めた標準管理規約64条は、個々の区分所有者に対し組合員名簿の閲覧請求権を認めている(この事実は公知の事実である。なお、標準管理規約は、適正化推進法施行後は、同法5条に基づく国からの情報提供として公表されているものと位置づけられるものである。)。
のみならず、一般法人法32条は、一般社団法人の個々の社員に対し社員名簿の閲覧謄写請求権を認め、会社法125条は、株式会社の個々の株主に対し株主名簿の閲覧謄写請求権を認めている。
一般法人法と会社法は、いずれも個人情報の保護に関する法律が平成15年5月30日に施行された後に立法され施行された法律であるが、これら法律は、個人情報保護の観点から、人的団体の構成員が他の構成員が誰であるかを知る権利を制限しようとはしていない。
さらに、区分所有法34条3項及び4項は、少数組合員が総会を招集する場合があることを定めているが、少数組合員が組合員名簿を閲覧できなければ上記規定の実効性を確保することができないおそれがある。
したがって、個人情報保護の観点から本件規約46条を無効と解すべきではない。

濫用と認められる請求

組合員名簿の閲覧が濫用と認められる場合、閲覧を拒否することができます。

この点、以下のような裁判例があります。

  • 組合員名簿の閲覧などの請求が一般法人法32条3項所定のような不適切なものと認められる場合には情報開示を拒絶できるとした裁判例(大阪高裁平成28年12月9日)
  • 組合員による総会招集権を行使して規約の改正を内容とする議案を総会に提案するため、他の組合員の連絡先を把握することを目的とした組合員名簿の閲覧は権利濫用に該当しないとした裁判例(東京地裁平成29年10月26日)

なお、一般社団法人では、次のいずれかに該当する場合、社員名簿の閲覧・謄写を拒むことができるとされています(32条3項各号)。

  1. 請求を行う社員(請求者)がその権利の確保・行使に関する調査以外の目的で請求を行った場合
  2. 請求者が一般社団法人の業務の遂行を妨げ、又は社員の共同の利益を害する目的で請求を行った場合
  3. 請求者が社員名簿の閲覧・謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求を行った場合
  4. 請求者が、過去2年以内において、社員名簿の閲覧・謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものである場合

▶大阪高裁平成28年12月9日

一般法人法32条3項は、社団法人が社員に対する情報開示を拒絶できる場合を定めており(会社法433条2項にも同様の規定がある。)、この規定は、本件規約又は民法645条に基づく閲覧謄写請求権の行使についても考慮すべき内容である。
したがって、控訴人らの本件請求が一般法人法32条3項所定のような不適切なものと認められる場合には、被控訴人は情報開示を拒絶できるものと解するのが相当である。
…上記の認定事実に照らせば、控訴人らが、役員人事や修繕工事の発注の面で被控訴人の運営に不信感を抱いたことには相応の理由があるといわなければならず、しかも、被控訴人は、8400万円の雑排水管更新工事に関する資料については開示を明示的に拒絶し、その他の裏付資料についてもこれを全面的に開示しようとしないのであるから、本件議事録等をさらに仔細に検討する必要があるとの前提で控訴人らが本件請求をしているのは、何ら不適切なものではない。

▶東京地裁平成29年10月26日

被告は、原告が被告の理事であるにもかかわらず、理事会での議論を通さずに、本件議案を直接総会に提案するために本件閲覧請求をしていることなどによれば、本件閲覧請求は正当な理由を欠き、権利濫用に該当する旨主張する。
しかし、本件閲覧請求は、被告の組合員である原告が、組合員による総会招集権を行使して本件規約の改正を内容とする本件議案を総会に提案するため、他の組合員の連絡先を把握することを目的としている。
まさに組合員としての正当な権利行使のための名簿の閲覧請求であって、本件閲覧請求の目的に不当性又は濫用的な側面を見出すことはできない

被告は、原告が理事会を通さずに本件議案を直接総会に提案することが問題であるなどと主張するが、被告又は被告の理事会がそのように考えるのであれば、本件議案が提案された総会においてその旨主張し、他の組合員の賛同を得るよう努力すべきであって、本件議案の総会への提出自体又は本件閲覧請求が妨げられる理由にはなり得ない。
このような被告又は被告の理事会の対応は、本件議案に反対であるがために、本件議案の総会への提案を阻止するための便法として、本件閲覧請求を拒否しているといえるのであって、少数組合員による権利実現の機会を保障するため、組合員に総会招集権を認めた本件規約…の趣旨を没却するものであり、言語道断というほかない。
本件規約に基づく組合の公正な運営を歪め、その立場を濫用しているのは、被告又は被告の理事会であって、その主張には一片の合理性も認められない。

また、被告は、本件閲覧請求が権利濫用に該当する根拠として、本件名簿に極めて機密性の高い個人情報が記載されていることを主張する。
しかし、本件閲覧請求は、組合員による総会招集権の行使という被告全体の利益に資する重要な権利の行使を準備するためにされており、その目的の重要性に照らすと、本件名簿に組合員の個人情報…が記載されているからといって、本件閲覧請求が権利濫用に該当すると認めることはできない。

…したがって、本件閲覧請求が、正当な理由を欠き、権利濫用に該当するとは認められず、被告の上記主張を採用することはできない。

閲覧範囲の制限

組合員名簿の閲覧が認められるとしても、閲覧の範囲を制限できるかが問題となります。

標準管理規約では、組合員名簿の閲覧などに際しては、組合員のプライバシーに留意する必要があるとされています(コメント64条関係③)。

この点、組合員名簿の閲覧請求が、組合員による総会招集権という重要な権利の行使を目的としていることや、名簿の閲覧自体を拒否する管理組合の対応などの具体的な事情も考慮した上で、閲覧範囲の限定を認めなかった裁判例があります(東京地裁平成29年10月26日)。

もっとも、組合員名簿の閲覧請求の目的・経緯や組合員名簿の記載内容などの個別の事情によっては、閲覧の範囲を限定できる場合もあると考えられます。

▶東京地裁平成29年10月26日

被告は、本件閲覧請求が認められるとしても、組合員の自宅電話番号や携帯電話番号、備考欄など極めて機密性の高い個人情報が記載されていること、本件閲覧請求の目的を達成するには、組合員の氏名、部屋番号及び送付先住所のみ閲覧すれば十分であることから、閲覧の範囲を組合員の氏名、部屋番号及び送付先住所に限定すべきである旨主張する。
しかし、…本件閲覧請求は、組合員による総会招集権の行使という被告全体の利益に資する重要な権利の行使を準備するためにされており、その目的の重要性に照らすと、本件名簿に個人情報が記載されているとしても、その閲覧の範囲を限定することには慎重な検討が必要である。
特に、本件では、前記説示のとおり、被告が本件議案の総会への提案自体を阻止することを目的として本件閲覧請求を拒否していると認められるのであり、なおさら慎重な検討が必要といえる。
以上の観点に立った上で、本件閲覧請求の目的の重要性に照らしてもなお、本件閲覧請求による本件名簿の閲覧の範囲を制限すべき事情があるかどうかについて検討すると、本件名簿の記載内容…その他本件全証拠によっても、そのような事情を認めるに足りない。
したがって、本件閲覧請求による本件名簿の閲覧の範囲を限定すべきとの被告の主張は採用することができない。