区分所有法19条は、各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取するとしています。
そのため、管理費等の額については、原則として持分の割合に応じることになりますが、規約において別段の定めをすることもできます。
もっとも、規約の内容が、専有部分・共用部分・建物の敷地・附属施設(建物の敷地・附属施設に関する権利を含みます。)の形状、面積、位置関係、使用目的、利用状況、区分所有者が支払った対価等の事情を総合的に考慮して、区分所有者間の利害の衡平が図られるものであることが必要です(区分所有法30条3項)。
したがって、管理規約で管理費の額に差をつけることが区分所有法30条3項に違反しないかが問題となります。
区分所有法30条3項において考慮される要素には、以下のようなものがあります。
- 形状・面積…専有部分の床面積や容積などの大小に応じて共用部分の負担等に異なる割合が定められる場合があること等が考えられます。なお、床面積の割合は、規約に別段の定めがない限り、区分所有者の共用部分の持分の割合(区分所有法14条1項)、共用部分の負担等の割合(区分所有法19条)、議決権の割合(区分所有法38条)などを決める基準となっています。
- 位置関係…特定の専有部分に隣接した敷地の一部を専用庭として専用使用権を認めたり、ルーフバルコニーの専用使用権を認める場合があること等が考えられます。
- 使用目的…専有部分を商業用(店舗・事務所等)や居住用といった用途の違いによって、共用部分の負担等について異なる割合を定める場合があること等が考えられます。
- 利用状況…集会室等の利用頻度の違いに応じて、その維持に要する費用負担について異なる割合を定める場合があること等が考えられます。
- 区分所有者が支払った対価…特定の区分所有者に共用部分の専用使用権を認め、これに対する対価が支払われる場合があること等が考えられます。
- その他の事情…1~5の他、管理規約が設定されるに至る経過、管理規約が設定・変更された集会決議の状況、分譲価格、マンションの居住状況等が考えられます。
区分所有法30条3項は、平成14年の改正により新設されたため(平成14年改正前にすでに設定されていた規約にも適用されます(附則2条1項本文)。)、区分所有法が平成14年に改正される前の裁判例においては、規約等の内容が公序良俗(民法90条)に反するか否かという形で争われています。
区分所有法法30条3項は、規約の内容が公序良俗に違反するか否かが問題とされた裁判例において考慮された要素を参考として、規約の衡平性を判断する場合の考慮要素を列挙することで規範の具体化・明確化を図ったものであり、従来の規範の内容に変更を加えることを意図したものではなく、公序良俗に違反するか否かと同様に判断されると考えられます。
管理費の額に差を設ける管理規約が無効であるとした裁判例として、以下のものがあります。
- 法人所有の場合と個人所有の場合とで管理費の額に約1.65倍の差を設けていた管理規約とこれに基づく金額決定の集会決議を無効とした(東京地裁平成2年7月24日)
- 居室の使用目的が居住用であるか事業用であるかによって管理費の額に差を設ける管理規約を無効とした(東京地裁平成27年12月17日)
<東京地裁平成2年7月24日>
本件では所有名義が法人か個人かという区別によって管理費等の徴収額に、修繕積立金の増額前で約1.72対1、修繕積立金の増額後で約1.65対1の差異が設けられており、このような差異が設けられた理由について、原告は、負担能力の差を挙げるほかあまり合理的な説明を加えていない。
…法人の方が管理費等を経費として計理処理することができるので、税負担が軽いといえなくもないが、この点は、各税法は別途の理屈や、目的に従って課税の仕方を定めているのであるから、単に経費化できるという一事から税負担が小さいとはいいきれない(個人事業者も経費とすることがあり得るし、給与所得者は別途各種の控除がある。)。また、法人は通常営利を目的とし、収入も高いはずという点も、我が国に多い小規模法人を考えると必ずしもそうとは断言できない。しかも、いずれにせよ、負担力に応じるというのであれば、私的団体における差別目的としての合理性もさほど高くはない上、よりきめ細かな区分が必要なはずであり、名義上の個人と法人といった区分方法程度では、手段として不適切といわざるを得ない。したがって、このような区分方法では、前記のような大きな差異を課することは、不合理というべきである。
また、管理費等のうち修繕積立金以外については、持分に応じた負担以外の考え方としては、より直接的に、各区分所有者が建物の共有部分等を使用する程度又はこれによる収益の程度に応じて、それぞれが負担するという理念もあり得よう。しかし、法人であるが故に必ずしも常に個人よりも共有部分等を多く使用しているとまでいうことはできない。使用程度あるいはこれによる収益の程度は、その業種、業態によって大きく異なる上、…組合員の中には個人の所有名義であるが、営業用に当該建物を利用している者もいることが認められる。実質的な利用状態を無視して、単に所有名義のみによって管理費等の徴収額に差異を設けることは、その手段において著しく不合理といわざるを得ない。したがって、前記の格差は、このような合理性の乏しい手段によるものとしては、不当に大き過ぎ、法人組合員に特には不利益な結果をもたらすものとして、是認できない。
このように検討してみると、…定時総会によりその差異が縮小し始めたことを考慮してもなお、現在程度の差異があり、かつ、被告が法人組合員であるが、当該建物を居住用に利用しているにすぎない者であり、この差異を承認しておらず、原告内部及び原告と被告間で、より合理的な管理費等の定め方等につき、十分な協議、検討が尽くされていない…本件では、本件組合規約及び金額の決議は、管理費等の徴収について、法人組合員につき差別的取扱いを定めた限度で、区分所有法の趣旨及び民法90条の規定に違反し、無効というべきである。
<東京地裁平成27年12月17日>
区分所有法30条3項は、建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項を規約で定めるに当たっては、これらの形状、面積、位置関係、使用目的及び利用状況並びに区分所有者が支払った対価その他の事情を総合的に考慮して、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならない旨を規定しており、上記要件が充たされていない場合には規約の当該部分は無効になるものと解される。そこで、…事業用物件の管理費額を通常の倍額とする規定(…本件倍額規定…)について、上記要件が充たされているか否かを検討する。
ア 本件倍額規定は、当該居室の使用目的が居住用であるか事業用であるかによって管理費額に差を設けるものであるところ、営利目的の事業用物件については当該居室からの収益が想定されるものの、このことから管理費の負担能力の高さまでが当然に基礎付けられるものとは認められない。
イ また、本件各居室の利用状況…が共用部分の使用頻度の観点から通常の居住用物件と大きく異なるものであるとは考え難い。なお、本件各居室以外の事業用物件についても、上記観点から居住用物件と大きく異なるような利用状況にあることをうかがわせる証拠はない。
ウ 被告らは、本件各居室の所有権を取得した後、…相当長期間にわたり本件倍額規定の適用を前提とした管理費等を支払っており、上記時期までにこれについて特段の異議を述べたこともなかったことは上記認定のとおりである。
もっとも、被告らに交付された重要事項説明書には本件倍額規定の存在を示す記載はなかったこと…、本件倍額規定について書面の形での規約改正はされておらずその周知の程度には疑問があること、被告らは本件各居室の管理費等を口座引落しの方法により一括して支払っていたことなどの事情に照らせば、被告らは本件倍額規定の存在について特段意識することなく、単に請求された金額の管理費等を支払っていたものと考えるのが自然であり、このことは被告ら以外の事業用物件の所有者らについても同様である。これを前提とすれば、被告ら及び他の事業用物件所有者らが本件倍額規定を適用して算定された額の管理費等を継続的に支払っていたとの事実は、同規定の合理性を基礎付ける事情として評価することはできないというべきである。
エ 原告は、本件倍額規定が存在しなければ赤字となり健全な運営ができなくなる旨も主張するが、仮にそのような状況にあったとしても、その解消は支出状況の改善又は居住用物件所有者らの負担割合との調整等によって実現されるべきものであり、上記アからウのとおり合理的な根拠があるとは認められない本件倍額規定の存在を許容すべき理由となるものではない。
…以上によれば、本件倍額規定は区分所有法30条3項に反するものとして、無効というべきである。
標準管理規約(単棟型)においては、総会の決議について、区分所有者及び議決権の各過半数(区分所有法39条1項)ではなく、議決権総数の半数以上を有する組合員が出席し、出席組合員の議決権の過半数で決するとされています(47条1項・2項)。
また、標準管理規約(単棟型)コメントの46条関係においては、以下のような対応も可能であるとされています。
① 議決権については、共用部分の共有持分の割合、あるいはそれを基礎としつつ賛否を算定しやすい数字に直した割合によることが適当である。
② 各住戸の面積があまり異ならない場合は、住戸1戸につき各1個の議決権により対応することも可能である。
また、住戸の数を基準とする議決権と専有面積を基準とする議決権を併用することにより対応することも可能である。
③ ①や②の方法による議決権割合の設定は、各住戸が比較的均質である場合には妥当であるものの、高層階と低層階での眺望等の違いにより住戸の価値に大きな差が出る場合もあることのほか、民法第252条本文が共有物の管理に関する事項につき各共有者の持分の価格の過半数で決すると規定していることに照らして、新たに建てられるマンションの議決権割合について、より適合的な選択肢を示す必要があると考えられる。これにより、特に、大規模な改修や建替え等を行う旨を決定する場合、建替え前のマンションの専有部分の価値等を考慮して建替え後の再建マンションの専有部分を配分する場合等における合意形成の円滑化が期待できるといった考え方もある。
このため、住戸の価値に大きな差がある場合においては、単に共用部分の共有持分の割合によるのではなく、専有部分の階数(眺望、日照等)、方角(日照等)等を考慮した価値の違いに基づく価値割合を基礎として、議決権の割合を定めることも考えられる。
この価値割合とは、専有部分の大きさ及び立地(階数・方角等)等を考慮した効用の違いに基づく議決権割合を設定するものであり、住戸内の内装や備付けの設備等住戸内の豪華さ等も加味したものではないことに留意する。
また、この価値は、必ずしも各戸の実際の販売価格に比例するものではなく、全戸の販売価格が決まっていなくても、各戸の階数・方角(眺望、日照等)などにより、別途基準となる価値を設定し、その価値を基にした議決権割合を新築当初に設定することが想定される。ただし、前方に建物が建築されたことによる眺望の変化等の各住戸の価値に影響を及ぼすような事後的な変化があったとしても、それによる議決権割合の見直しは原則として行わないものとする。
なお、このような価値割合による議決権割合を設定する場合には、分譲契約等によって定まる敷地等の共有持分についても、価値割合に連動させることが考えられる。