管理費を滞納している組合員が、マンションを売却した場合、管理費を滞納した売主だけでなく、買主に対しても管理費の支払いを請求できます。
特定承継人
次の債権(7条1項前段)は、区分所有者の「特定承継人」に対しても行使できます(8条)。
- 共用部分・建物の敷地・共用部分以外の建物の附属施設について、他の区分所有者に対して有する債権
- 規約・集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権
管理費や修繕積立金を請求する権利は、規約・集会の決議に基づいて他の区分所有者に対して有する債権に含まれます。
また、特定承継人とは、他人の権利・義務の一部を個別に引き継いだ者をいいます。
これに対し、相続人のように他人の権利・義務の全部を一括して引き継ぐ者を包括承継人といいます。
したがって、管理組合は、「特定承継人」に対しても、元の区分所有者が滞納していた管理費を請求することができます。
「特定承継人」に該当するのは以下の場合です。
- マンションの買主
- 競売によりマンションを取得した者
- マンションを買った後に売却した者
マンションの買主
マンションの買主は「特定承継人」(8条)に該当します。
したがって、管理組合は、マンションの買主に対しても、売主が滞納していた管理費を請求できます。
なお、滞納していた管理費だけではなく、滞納していた駐車場使用料・駐輪場使用料や遅延損害金についても、管理組合は、マンションの買主に対して請求できます。
駐車場使用料などについては、別のページで説明します。
競売によりマンションを取得した者
任意の売買によりマンションを買った者だけでなく、競売によりマンションを取得した者も「特定承継人」(8条)に該当します(東京地裁平成9年6月26日)。
したがって、管理組合は、競売によりマンションを取得した者に対しても、競売された組合員が滞納していた管理費を請求できます。
<東京地裁平成9年6月26日>
…区分所有法8条が、特定承継人の責任を定めたのは、特定の区分所有者が管理費、修繕積立金等の経費にかかる債務を支払わないまま区分所有権を譲渡した場合、他の区分所有者が出損したこれらの経費は、既にその目的のために費消されていれば建物等の全体の価値に、すなわち債務の履行をしない区分所有者の有する区分所有権の価値にも化体しているのであるし、未だ費消されずにいればそれは団体的に帰属する財産を更正しているのであるから、区分所有者の特定承継人がその支払責任を負うのが相当であるからであるとの趣旨とも理解されるが、右趣旨からすれば、贈与、売買等の契約による譲受人と強制執行、担保権の実行として競売による買受人とを別異に扱う理由はない。
マンションを買った後に売却した者
マンションを買った後に売却した者も「特定承継人」(8条)に該当し、元の組合員が滞納していた管理費を請求できます(東京地裁平成20年11月27日、大阪地判平成21年3月12日、大阪地判平成21年7月24日)。
例えば、区分所有者Aが管理費を滞納したままBにマンションを売却し、管理費の滞納が解消されないままBがCにマンションを更に売却した場合、管理組合は、現在の区分所有者であるCだけでなく、A・Bに対しても、Aが滞納した管理費を請求できます。
この場合、A・B・Cの債務は、不真正連帯債務(管理組合からそれぞれに対して全額を請求できます。)となります(後掲東京高裁平成17年3月30日、前掲東京地裁平成20年11月27日)。
<東京地裁平成20年11月27日>
⑴ 上記前提事実によれば、被告は、本件滞納管理費等と本件滞納賃料の債務者…から、不動産競売により本件区分所有建物の区分所有権を取得した後、引受承継人に本件区分所有建物を売却したのであるから、現在は本件区分所有建物の所有者ではない。
そこで、現在の特定承継人ばかりでなく、このような中間者たる特定承継人も、区分所有法8条所定の「特定承継人」に当たるか否かについて検討する。
⑵ 区分所有法7条及び8条は、区分所有者が区分所有建物の集合体である建物の共有部分、敷地又は附属部分を共同して維持管理すべき立場にあることに鑑み、適正な管理に必要な経費等にかかる区分所有者の債務について、その履行の確保を図るため、債務者の区分所有権及び区分所有建物に備え付けた動産(以下「区分所有権等」という。)に対する先取特権を法定するとともに、債務者たる区分所有者からの特定承継人に重畳的に債務を負担させたものである。
そして、区分所有法8条は、特定承継人に対する債権行使の手段を同法7条の区分所有権等上の先取特権の実行に限定していないから、特定承継人の区分所有権等以外の一般財産に対する同条の責任追及も可能である。
このように8条の特定承継人の法定責任は7条の先取特権と直接リンクしたものではなく、先取特権とは別途追及することもできる責任であることからすると、8条の責任主体を区分所有建物の現所有者たる特定承継人に限定する必然性はなく、むしろ、中間者たる特定承継人についても、債務者たる区分所有者の特定承継人としてひとたび債務者と重畳的に債務負担すべき法的地位に就いた以上は区分所有権喪失後もその地位に留まらせることが、建物の適正な維持管理に必要な経費等の債務の履行確保を図ろうとした8条の趣旨に適うというべきである。
⑶ また、実際上も、マンションの管理組合が共有部分の管理に要した費用が、8条が引用する7条1項に規定する債権の多くの部分を占めるところ、中間者たる特定承継人は、区分所有権を取得してからこれを喪失するまでの間に、前区分所有者が支払を怠った費用を他の区分所有者や管理組合が肩替わりすることによって維持管理された共有部分を使用できる利益を享受する一方で、その間8条の責任を懈怠したまま区分所有権を第三者に移転したのであるから、区分所有権を喪失した後も8条の責任を負わせることが衡平というべきである。
⑷ さらに、8条の文理上も、債務者たる区分所有者の特定承継人について、現在の特定承継人に限定しておらず、中間者たる特定承継人を排除していない。
⑸ 以上によれば、現在の特定承継人ばかりでなく、中間者たる特定承継人も区分所有法8条所定の「特定承継人」に当たる…。
⑹ …なお、本件滞納管理費等及び本件滞納賃料の本来の債務者…と8条の特定承継人である被告及び引受承継人の債務は、相互に不真正連帯債務関係に立つ…。
売主に対する求償
管理費を滞納していたAがマンションをBに売却し、Bが管理組合に対してAが滞納していた管理費を支払った場合、Bは、Aに対し、滞納管理費の全額の支払いを請求できます。
この点、管理費の滞納のあるマンションを競売により取得した者は、競売された元組合員に対し、管理組合に支払った滞納管理費の全額を求償することができるという裁判例があります(東京高裁平成17年3月30日)。
<東京高裁平成17年3月30日>
…建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)8条は、同法7条1項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる旨規定しており、これによれば、被控訴人は、本件管理費等の滞納分について、控訴人の特定承継人として支払義務を負っていることは明らかである。
これは、集合建物を円滑に維持管理するため、他の区分所有者又は管理者が当該区分所有者に対して有する債権の効力を強化する趣旨から、本来の債務者たる当該区分所有者に加えて、特定承継人に対して重畳的な債務引受人としての義務を法定したものであり、債務者たる当該区分所有者の債務とその特定承継人の債務とは不真正連帯債務の関係にあるものと解されるから、真正連帯債務についての民法442条は適用されないが、区分所有法8条の趣旨に照らせば、当該区分所有者と競売による特定承継人相互間の負担関係については、特定承継人の責任は当該区分所有者に比して二次的、補完的なものに過ぎないから、当該区分所有者がこれを全部負担すべきものであり、特定承継人には負担部分はないものと解するのが相当である。
したがって、被控訴人は、本件管理費等の滞納分につき、弁済に係る全額を控訴人に対して求償することができることとなる。
控訴人は、物件明細書等に本件管理費等の滞納分が明示されていることや最低売却価額における控除の措置がされていること等から滞納分は被控訴人が負担すべきであると主張する。しかしながら、物件明細書等の競売事件記録の記載は、競売物件の概要等を入札希望者に知らせて、買受人に不測の損害を被らせないように配慮したものに過ぎないから、上記記載を根拠として本件管理費等の滞納分については当然買受人たる被控訴人に支払義務があるものとすることはできない。