マンションの売主が滞納していた水道・電気使用料をマンションの買主に対して請求できますか

水道・電気使用料を滞納している組合員が、マンションを売却した場合、買主に対して、原則として、売主が滞納していた専有部分の水道・電気使用料の支払いを請求できません。

もっとも、例外的に、買主に対して、売主が滞納していた専有部分の水道・電気使用料の支払いを請求できることもあります。

特定承継人

次の債権(区分所有法7条1項前段)は、区分所有者の「特定承継人」に対しても行使できます(区分所有法8条)。

  • 共用部分・建物の敷地・共用部分以外の建物の附属施設について、他の区分所有者に対して有する債権
  • 規約・集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権

特定承継人とは、他人の権利・義務の一部を個別に引き継いだ者をいい、マンションの買主は特定承継人に含まれます。

特定承継人については、こちらのページで説明します。

規約・集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権

原則

前に述べた規約・集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権(区分所有法7条1項前段)には、専有部分の水道・電気使用料は含まれないと考えられます。

規約で定めることができるのは、建物・その敷地・附属施設の管理・使用に関する区分所有者相互間の事項です(区分所有法30条1項)。

専有部分も建物に含まれることから、専有部分の管理・使用に関する事項を規約で定めることもできます。

もっとも、専有部分は、各組合員が原則として自由に管理・使用できることから、専有部分の管理・使用に関して規約で定めることができる事項には制限があります(東京地裁平成5年11月29日、名古屋高裁平成25年2月22日)。

<東京地裁平成5年11月29日>

共用部分の維持費や修繕費等の諸費用はもとより、共用部分である冷暖房設備や給湯設備、駐車場等の使用料についても、集会の決議をもって、その額ないし計算方法を定めることができるといえるが、それらと異なり、専ら専有部分で使用する電気料とか水道料は、本来、区分所有者各自がそれぞれの責任で負担すべき性質のものであるから、その料金の算定を集会の決議で多数決の方法により決めることはできないと解するのが相当である(もちろん、専有部分での電気、水道の利用も、共用部分である配電設備、給水設備等の使用を伴うものであることはいうまでもなく、したがって、配電設備、給水設備等の維持管理の費用が全区分所有者の負担となることは当然である。)。
そうすると、本件…集会で管理費の賦課として決議された事項のうち、基本管理費、設備機器保守料、冷暖房空調費、給湯費については、いずれも共用部分に属する設備等の維持、管理に関する費用ということができるが、電気料と水道料は、専ら専有部分において消費した電気、水道の料金であって、共用部分の管理とは直接関係のない事柄であり、その額を区分所有者集会の多数決によって定めることはできない…。

<名古屋高裁平成25年2月22日>

建物の区分所有等に関する法律(以下、単に「法」という。)は、区分所有者、管理者又は管理組合法人は、規約に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる旨定めているが(法8条、7条1項)、法3条前段が「区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。」と定め、かつ法30条1項が「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。」と定めている趣旨・目的に照らすと、建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項に限って規約で定めることができるのであり、それ以外の事項を規約で定めても規約としての効力を有しないというべきである。
そして、専有部分である各戸の水道料金は、専ら専有部分において消費した水道の料金であり、共用部分の管理とは直接関係がなく、区分所有者全体に影響を及ぼすものともいえないのが通常であるから、特段の事情のない限り、上記の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項には該当せず、上記水道料金について、各区分所有者が支払うべき額や支払方法、特定承継人に対する支払義務の承継を区分所有者を構成員とする管理組合の規約をもって定めることはできず、そのようなことを定めた規約は、規約としての効力を有しない…。

例外

前に説明したように、規約・集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権(7条1項前段)には、専有部分の水道・電気使用料は含まれないと考えられます。

もっとも、例外的に専有部分の水道・電気使用料も含まれるとした裁判例もあります(大阪高裁平成20年4月16日)。

<大阪高裁平成20年4月16日>

本件マンションでは、…本件マンションの各専有部分について各戸計量・各戸収納制度を実施することができない。

…本件マンションでは、…関西電力と本件マンションの各専有部分との間では、電気供給につき戸別契約(低圧契約)を締結することができない。

…法は、区分所有者、管理者又は管理組合法人は、規約に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる旨定めているが(法8条、7条1項)、ここにいう債権の範囲は、いわゆる相対的規約事項と解されるものの、法3条1項前段が「区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。」と定め、かつ法30条1項が「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。」と規律している趣旨・目的に照らすと、建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、規約で定めることができるものの、それ以外の事項を規約で定めるについては団体の法理による制約を受け、どのような事項についても自由に定めることが許されるものではないと解される。
そして、各専有部分の水道料金や電気料金は、専ら専有部分において消費した水道や電気の料金であり、共用部分の管理とは直接関係がなく、区分所有者全体に影響を及ぼすものともいえない事柄であるから、特段の事情のない限り、規約で定めうる債権の範囲に含まれないと解すべきである。

しかるところ、前記事実関係によれば、①本件マンションは、各専有部分は、すべてその用途が事務所又は店舗とされているところ、②本件マンションでは、被上告人が、市水道局から水道水を一括して供給を受け、親メーターで計測された水道使用量を基に算出された全戸分の使用料金を一括して立替払した上、各専有部分に設置した子メーターにより計測された使用量を基にして算出した各専有部分の使用料金を各区分所有者に請求していることとしているが、これは本件水道局取扱いの下では、本件マンションの各専有部分について各戸計量・各戸収納制度を実施することができないことに原因し、③被上告人が、関西電力から電力を一括して供給を受け、親メーターで計測された電気使用量を基に算出された全戸分の使用料金を一括して立替払した上、各専有部分の面積及び同部分に設置した子メーターにより計測された使用量を基にして算出した各専有部分の使用料金を各区分所有者に請求しているが、これは本件マンションの動力の想定負荷が低圧供給の上限を超えており、また、本件マンションには純住宅が2軒以上なく電気室供給もできないため、関西電力と本件マンションの各専有部分との間で、電気供給につき戸別契約(低圧契約)を締結することができないことに原因するというのであるから、本件マンションにおける水道料金等に係る立替払とそれから生じた債権の請求は、各専有部分に設置された設備を維持、使用するためのライフラインの確保のため必要不可欠の行為であり、当該措置は建物の管理又は使用に関する事項として区分所有者全体に影響を及ぼすということができる。
そうであれば、被上告人の本件マンションの各区分所有者に対する各専有部分に係る水道料金等の支払請求権については、前記特段の事情があるというべきであって、規約事項とすることに妨げはなく、本件規約…に基づく債権であると解することが相当である。