滞納管理費を回収する方法

管理費などの確実な徴収は、管理組合がマンションの適正な管理を行う上での根幹的な事項であり、管理費等の滞納は、管理組合の会計に悪影響を及ぼすのはもちろんのこと、他の区分所有者への負担転嫁などの弊害もあることから、滞納された管理費などの回収は極めて重要であり、管理費等の滞納者に対する必要な措置を講じることは、管理組合(理事長)の最も重要な職務の一つであるとされています(標準管理規約(単棟型)60条関係コメント③)。

滞納管理費を回収するには、次のような方法が考えられます。

  • 催促・交渉
  • 管理費請求訴訟
  • 強制執行
  • 区分所有法59条の競売

なお、標準管理規約(単棟型)では、管理組合が滞納者に対してとり得る各種の措置について段階的にまとめたフローチャート及びその解説が別添3に掲げられています(60条関係コメント③)。

催促・交渉

まず、滞納者に対して電話や文書で支払いの意思や方法などを確認します。

滞納者と連絡がとれ、支払いの意思を確認できれば、滞納管理費の額と返済方法を文書で確認して、その内容を承認してもらいます。

しかし、滞納者と連絡が取れなかったり、支払いの意思が確認できない場合、内容証明郵便(配達された文書の内容と日時を郵便局が公的に証明する郵便)により支払いを督促することが考えられます。

管理費は、支払時期から5年が経過すると時効により消滅しますが(民法166条1項1号、最高裁平成16年4月23日判決参照)、内容証明郵便などにより滞納管理費の支払いを督促した場合、管理費が時効により消滅するのを6か月間先延ばしにすることができます(民法150条1項)。

また、滞納者が債務を承認すると時効の進行がリセットされ、債務を承認した時から改めて5年が経過しないと時効により消滅しません(民法152条2項)。

管理費請求訴訟

支払の督促・交渉をしても、支払の見込みがない場合、訴訟をして滞納管理費の回収を検討することになります。

管理費を請求する訴訟には、支払督促・少額訴訟・通常訴訟などの選択肢があり、事案に応じて使い分けることが考えられます。

訴訟において、滞納者が滞納管理費を一括して支払うことができない場合、滞納管理費を分割払いとする和解をすることもできます。

支払督促に対して異議申し立てしなかったり、訴訟での判決や和解により滞納額が確定したにもかかわらず、滞納者が支払をしなかった場合には、管理組合は判決書など裁判所が作成した文書によって、改めて滞納者の財産を差し押さえるなどの強制執行をして滞納管理費を回収することができます。

強制執行

先取特権に基づく競売の申立

滞納管理費については、管理費請求訴訟をしなくても、先取特権に基づく競売の申立てをして、滞納者の区分所有権や建物に備え付けた動産を売却して優先的に回収することもできます(区分所有法7条1項前段)。

先取特権は、契約がなくても認められる、他の債権者に優先して弁済を受けることができる担保権です。

管理費に関する先取特権は、登記をしていなくても担保権を持たない債権者には優先して弁済を受けることができます(民法336条本文)。

先取特権の対象となるものは、区分所有権や建物に備え付けられた動産に限られます。

まず、建物に備え付けた動産について弁済を受けて、それでも不足があるときに、区分所有権から弁済を受けることになります(民法335条1項)。

もっとも、先取特権は、以下のような理由から、滞納管理費を回収するための有効な手段とならないこともあります。

  • 建物に備え付けた動産は生活に必要な家財道具などの差押えが禁止されているものが多く、また、差押えできるとしても価値のないものが多いため、動産を売却しても滞納管理費の回収をすることは困難
  • 住宅ローンのために銀行などの債権者がマンションに抵当権の設定を受けている場合、抵当権を持つ債権者が優先するため(民法336条但書)、管理組合がマンションの売却代金から滞納管理費を回収することは困難
  • 管理組合が競売の申し立てをしようとしても、管理組合への配当される見込みがない場合、競売の手続き自体ができない(民事執行法63条2項)

債務名義に基づく差押え

管理組合は判決書など裁判所が作成した文書によって、滞納者の財産を差し押さえるなどの強制執行をして、滞納管理費を回収することができます。

もっとも、債務者の財産に対して強制執行するには、強制執行の対象を明確にするために、債務者の財産を特定する必要があります。

債務者の勤務先や口座を保有している金融機関(支店名も)が判明している場合、勤務先に対する給料債権や預貯金債権を差押えて、滞納管理費を回収することができます。

もっとも、これらの債務者の財産に関する情報を管理組合が保有していることは少なく、任意の開示を求めても債務者から拒否されて明らかになりにくいと思われます。

そこで、以下のような債務者の財産を調査する手段があります。

  • 弁護士会照会
  • 財産開示手続
  • 第三者からの情報取得手続(不動産に関する情報取得手続・勤務先に関する情報取得手続・預貯金債権などに関する情報取得手続)

強制執行の対象となる財産の調査については、こちらのページで説明します。

区分所有法59条の競売

管理費等の滞納を理由として、区分所有権と敷地利用権の競売を請求できます(区分所有法59条1項)。

区分所有法59条1項に基づく競売を請求する裁判は、区分所有権と敷地利用権の競売を認める判決をもらうためのもので、その判決に基づいて改めて裁判所に競売の申立てをすることになります。

管理費滞納を理由とする競売請求については、こちらのページで説明します。