管理費滞納を理由とする競売請求

区分所有法第7条の先取特権の実行や区分所有者の財産に対する強制執行をしても、滞納管理費を回収できない場合、最後の手段として、区分所有法59条に基づき、区分所有権と敷地利用権を競売することにより区分所有者を排除することで、マンションの買主(新しい区分所有者)に対して滞納管理費を請求できます。

競売請求訴訟

マンションの競売を申し立てる前提として、区分所有権と敷地利用権の競売を裁判所に請求する必要があります(区分所有法59条)。

実体的な要件

競売請求が認められるためには、次の要件を満たす必要があります(区分所有法59条1項)。

  1. 建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し、区分所有者の共同の利益に反する行為をしたり、その行為をするおそれがあること
  2. その行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しいこと
  3. 他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であること

3の要件は厳格に判断されているため、区分所有法7条による先取特権の実行や債務者の財産に対する強制執行による回収の可能性について慎重に検討する必要があると考えられます。

競売請求を認めた裁判例

<東京地裁平成19年11月14日>

[1の要件]…本件未払金の額は、…938万0405円に達している(その内訳は、本件未払管理費等が681万9060円であり、これらに対する遅延損害金が256万1345円である。)…。
…マンション等の共同住宅において、区分所有者の共有に属する共用部分を維持管理していくために、所定の管理費や修繕積立金等を区分所有者が負担することは当然であり、これは区分所有者の最低限の義務であるといっても過言ではない。
一部の区分所有者がその支払をしない場合、その負担は他の区分所有者に掛かることとなり、不公平が生じ、最終的には共用部分の維持管理が困難となる事態を招くことが想定される。
とりわけ、本件マンションの総戸数は12戸であること…からすれば、そのうちの1戸の住民である被告による管理費等の滞納が本件マンションの維持管理に与える影響は看過できないというべきである。
また、…C[管理組合]は…との間で管理委託契約を締結しており、同社に対して支払うべき本件管理委託費は年額で880万2360円であるにもかかわらず、Cの管理費の年間実収入は被告の管理費の滞納により804万2400円となっており、Cは、本件管理委託費の支払原資に不足を来し、修繕積立金の一部を本件管理委託費の支払に充てざるを得ない状況にあること、被告は、修繕積立金の支払も毎年17万7120円滞納していること、そのような状況が長期に及び、被告の管理費等の滞納額が…多額になった結果、本件マンションにおいて経年劣化により改修が必要となっている項目についての改修費用は平成18年3月時点で判明しているだけでも1516万7259円に上っているが、同月31日時点のCの資産残高は1115万3049円にすぎず、本件マンションは必要な改修工事が実施できない状況にあることの各事実が認められ、被告の管理費等の滞納により区分所有者に実害が生じているといえる。
以上の事情にかんがみれば、被告の本件管理費等の滞納は、共同利益背反行為に当たるというべきである。

[2の要件]…被告の管理費等の未払によって、区分所有者の共同生活上の障害が著しくなっているというべきである。

[3の要件]…被告は、法59条1項の「他の方法によっては……困難であるとき」という要件を満たすためには、本件先取特権の実行又はその他の財産に対する強制執行によってもその債権の満足を得ることができない場合であることを要するものというべきであるところ、Cは、被告に対し、本件先取特権の実行又は被告のその他の財産に対する強制執行を行っていないのであるから、本件では上記要件を満たさない旨主張する。
…しかし、Cが本件区分所有権に対して本件先取特権に基づき担保不動産競売の申立てをしたとしても、その申立ては民執法188条、63条2項に基づき取り消される可能性が極めて高いというべきである。
仮に、上記申立てが取り消されなかったとしても、本件先取特権に優先する上記根抵当権の現在の被担保債権額及び上記滞納租税の額にかんがみれば、…Cが本件区分所有権から本件未払管理費等を回収することはできないというべきである。
…被告は、平成19年3月13日の本件弁論準備手続期日において、本件未払金の弁済に充てるに足りる被告所有の財産としては、本件賃借権等、本件保証金返還請求権、T不動産が挙げられると主張しているのであるから…、Cは被告が本件居室に備え付けた動産に対する本件先取特権の実行としての動産競売の申立てによって本件未払管理費等を回収することはできないことも明らかである。
よって、本件では、Cが現実に本件先取特権の実行をしていないことは、上記要件該当性を否定するものではない。
…また、Cが被告が上記のとおり主張する財産である本件賃借権等、本件保証金返還請求権、T不動産から本件未払金の回収ができない…上、…被告は、他に本件未払金の弁済に充てるに足りる財産を有していないことが認められることに照らせば、本件では、Cが現実に被告の財産に対する強制執行を行っていないことは、上記要件該当性を否定するものではない。
…よって、被告の上記主張は採用することができない。
…以上によれば、本件マンションの他の区分所有者らは、法59条1項に基づく本件区分所有権の競売請求以外の方法によっては、区分所有者の共同生活上の障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるというべきである。

<東京地裁平成21年 7月15日>

[1・2の要件]被告が、本件マンションの管理等のため、区分所有者が共同して負担しなければならない管理費等を長期にわたり滞納し続け、その滞納額も多額にのぼっていることから、被告の管理費等の滞納については、本件マンションの管理等に関し、区分所有者の共同の利益に反する行為に該当し、それにより本件マンションの区分所有者の共同生活上の障害が著しい状態が生じていると認められる(区分所有法59条1項、57条1項、6条1項)。

[3の要件]…被告区分所有建物には、抵当権者を株式会社住宅金融債権管理機構、債権額を2600万円とする抵当権が設定されていること、株式会社整理回収機構を債権者として、平成19年8月31日付けで担保不動産競売開始決定がされたが、平成20年5月8日付けでそれが取消決定されたこと、被告区分所有建物の平成20年度の評価額が686万9680円であることなどが認められる。
以上の事実に加え、前記のとおり、被告の管理費等の滞納状況や、被告について、破産手続開始決定がされたが、費用不足により破産手続廃止決定がされたことなども併せれば、被告には、被告区分所有建物以外に不動産や債権等の資産がないことが推認され、被告が滞納管理費等を任意で支払うことが見込まれないばかりか、原告が先取特権(区分所有法7条)に基づき被告区分所有建物の競売を申し立てたとしても、被告の滞納管理費等を回収することは困難であるというほかないと言うべきである。
そうすると、被告の管理費等の滞納については、被告区分所有権等の競売請求以外の方法によっては、本件マンションの区分所有者の共同生活上の障害を除去して、共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難な状態を生じさせていると認めることができる。

<東京地裁平成22年1月26日>

[1の要件]…被告は、平成20年9月30日、前訴判決…において、平成12年以降の未払管理費と遅延損害金の支払を命じられながら、その確定から1年1か以上も経過した今日まで、元本だけで155万円余に達する多額の未払管理費を一切支払っておらず…、その事実が、区分所有者の共同生活上の障害となることは明白である。
…付言するに、…平成20年度の本件管理組合法人の貸借対照表上、資産の部に計上されている未収金158万2850円のうち、155万0590円は被告の未払管理費元本であり、そのほかにも被告の遅延損害金75万8989円と31万3907円が未収金として計上されており、その合計額は262万3486円に達すること、これに対し、同貸借表上の現金、預貯金は合計しても117万3958円にすぎないことが認められ、本件管理組合法人の会計にも到底、見過ごしがたい影響を与えていることが明らかである。
…被告は平成21年7月16日、本件管理組合法人に分割払の申入れをしたことが認められるが、分割払を提示したのは未払管理費元本のみであること、実際には何らの支払もしていないことが認められ、前記認定を左右するものではない。

[2の要件]…①本件管理組合法人は、マンション建設当初は敷地を地主から賃借していたところ、平成18年、敷地を買い取る際に多額の借入れをし、その残高は平成21年5月末日時点で2800万円であり、現在、毎年2回、元本300万円と半年分の利息を返済しており、今後も継続的に多額の支出を必要としていること、②本件のマンションは築39年を経過し、修繕、維持管理にかかるコストも増大しているにもかかわらず、総戸数わずか21戸、1戸あたりの平均約40平方メートルという小規模マンションのため、組合員の高齢化(半数は年金生活者)と相まって、修繕、維持管理にかかる費用を捻出することは容易ではないことが認められる。
そうすると、被告が未払管理費及び遅延損害金の支払をしないことによる区分所有者の共同生活上の障害が著しいといわざるを得ない。

[3の要件]…さらに、…①被告は未払管理費の元本のみの支払に拘泥し、結局、今日まで、本件管理組合法人に対し、遅延損害金のみならず未払管理費元本相当額も全く任意で支払わないばかりか、②本件管理組合法人は、不動産執行や債権執行といった強制執行の方法によっても被告から債権を回収することできないことが認められる。
そうすると、本件管理組合法人としては、本件物件の競売を行い、新所有者から未払管理費及び遅延損害金を回収するしかなく、他の方法によってはその障害を除去して共同生活の維持を図ることは困難であるというほかない。

<東京地裁平成22年11月17日>

[1・2の要件]…破産者及び被告は、Nビルの管理運営のために区分所有者が共同して負担しなければならない管理費等を長期にわたり滞納し続けたため、その未払管理費等が多額にのぼっていることが認められ、破産者及び被告のこのような行為は「建物の管理に関し区分所有者の共同の利益に反する行為」(区分所有法59条1項、57条1項、6条1項)に当たり、これによる区分所有者の共同生活上の障害は著しいものと認められる。

[3の要件]…①破産者は、当初、取得した賃料以外の破産者の他の収入等をもって管理費等を支払う予定はないとしていたこと、②破産者が破産手続開始決定を受けた後、被告は、入札による任意売却の実施を申し出たものの、その入札基準価格は一般的な鑑定評価として妥当と考える価格の3.5倍に及ぶものであり、一般的な投資家の投資対象として不適切なものであったことなどの事情に照らせば、被告が管理費等の全額を任意で支払う見込みはなく、今後とも被告の管理費等の不払額は増大する一方であると推測されるところ、…原告は取り得る手段を講じている上、仮に区分所有法7条による先取特権又は本件判決に基づいて、本件各専有部分に係る区分所有権及び敷地利用権の競売を申し立てたとしても、被告の未払管理費等を回収することは困難であり、区分所有法59条1項による競売請求以外の「他の方法によっては、区分所有者の共同生活上の障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難である」(区分所有法59条1項)ものと認められる。

<東京地裁平成24年9月5日>

[1の要件]一般に、管理費の支払義務は建物等の管理に関するもっとも基本的な義務であるから、長期間にわたる管理費の不払は、区分所有法6条にいう「区分所有者の共同の利益に反する行為」に該当するものと解される。

[2の要件]…被告は、平成20年11月以降、管理費等の支払を怠り、その滞納額は、平成24年1月1日現在で140万円余に達していること、被告は、平成22年2月に破産廃止決定を受けた後は、会社としての実態がなく、今後、管理費等を支払うことは全く期待できないこと、したがって、このままでは、遅延損害金をおいても、管理費及び修繕積立金の合計額である年額25万2360円の滞納額が累積し続けていく見込みであることが認められる。
そうすると、本件マンションが700戸以上の区分所有建物から成る大規模リゾートマンションであり、平成23年度の本件マンション全体の管理費収入(予算額1億9790万0520円)及び修繕積立金収入(同2573万9160円)が多額であり…、被告の…上記滞納額がこれに比較して少額といえるものであったとしても、滞納期間が3年以上に及び、滞納額が既に100万円を超え、今後滞納が解消されず、かえって滞納額が累積していく見込みであることが認められるのであって、これらの事情に照らせば、被告による管理費等の不払は、「区分所有者の共同生活上の障害が著し」いものに当たるというべきである。

[3の要件]本件不動産については、優先債権として登記がされた抵当権の被担保債権が…残存している…のであって、これに、未払の租税…、手続費用を合計すると、本件不動産については、無剰余となる見込みが高いものと認められる。

…以上によれば、被告による管理費等の滞納は、建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反し、区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難である行為に当たるものというべきである。

競売請求を認めなかった裁判例

<東京地裁平成18年6月27日>

[1・2の要件]…まず、被告の行為が、同法6条1項所定の共同利益背反行為に当たるかについて判断するに、…被告は本件管理費等を滞納しており、その額は約170万円と多額であり、かつ平成12年11月分から少なくとも平成18年1月末までの約5年半という長期にわたり滞納を継続している上、この間、原告からなされた支払請求に対し被告は全く応じていない。
マンション等の共同住宅では、通常、自己の居室だけではなく、他の区分所有者と共同使用する設備や施設等が存在し、かかる共同使用施設等を維持管理していくことは区分所有者の共同の利益のために必要不可欠である。
管理費等は、その維持管理のために必要となるものであり、その負担は、区分所有者の最低限の義務であるということができる。
したがって、一部の区分所有者が管理費等の支払をしない場合、その区分所有者は他の区分所有者の負担で共同使用施設等を利用することになる。
このような事態は他の区分所有者の迷惑となることは明白であり、区分所有者の間で不公平感が生じ、管理費等の支払を拒む者が他にも現れることが予測され、最終的には、マンション等共同住宅全体の維持管理が困難となるものと考えられる。
このような観点からすれば、長期かつ多の管理費等の滞納は、同法6条1項所定の共同利益背反行為に当たるということができ、被告の上記認定の滞納はこれに該当するものと認められる。
そして、被告も認めるとおり、これによって、同法59条1項所定の、共同生活上の著しい障害が生じているといえる。

[3の要件]…次に、同法59条1項所定の、共同生活上の著しい障害が生じ、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるといえるか否かについて検討する。
まず、本件管理費等の滞納が「障害」に当たる場合、これを「除去」するためには、滞納した管理費等を回収することが必要となる。
そして、「他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるとき」との要件については、同法59条が行為者の区分所有権を剥奪し、区分所有関係から終局的に排除するものであることからすれば、上記要件に該当するか否かについては厳格に解すべきであり、滞納した管理費等の回収は、本来は同法7条の先取特権の行使によるべきであって、同法59条1項の上記要件を満たすためには、同法7条における先取特権の実行やその他被告の財産に対する強制執行によっても滞納管理費等の回収を図ることができず、もはや同条の競売による以外に回収の途がないことが明らかな場合に限るものと解するのが相当である。
…原告は被告に対して本件管理費等の支払を求めたが被告はこれに応じず、また、原告は本件支払督促に基づき債権差押命令を得たものの、差押債権である預金債権の残高がなかったため奏功せず、さらに、先取特権の実行ないし本件区分所有権等に対する強制執行は、元本合計約3000万円の抵当権及び根抵当権の存在により無剰余により取消しとなることが見込まれる状態であるといえる。
しかしなから、被告に対する債権回収の方策として、預金債権以外の債権執行の余地がないかについては明らかとはいえず、未だ本来の債権回収の方途が尽きたとまでは認められない。
さらに、被告は、本件訴訟の第2回口頭弁論期日に出頭し、陳述した準備書面において、長期間にわたる管理費の滞納を謝罪するとともに、経済状況が好転したことから本件管理費等の分割弁済による和解を希望する旨の態度を示しているのであって、このような被告の態度からすれば、原告か和解案として、まず被告に対して分割弁済の実績を示すことを要求するなどして、和解の中で本件管理費等を回収する途を模索することも考えられるところ、原告は被告の和解の希望を拒否して、同法59条1項による競売の途を選んだといえる。
このような状況からすれば、本件において、原告には、同法59条1項による競売申立て以外に本件管理費等を回収する途がないことが明らかとはいえないというべきであり、同条項所定の上記要件を充足すると認めることはできない。

<東京地裁平成20年6月20日>

[1・2の要件]…被告は本件管理規約に違反して本件管理費等を滞納し、本件滞納は滞納月数が40か月以上、滞納金額が…89万6800円、遅延損害金を含めれば111万9554円という長期かつ多額の滞納となっており、本件マンションの共用部分等の管理が不十分になるなどの事態を生じさせ得るものと認められる。
また、…本件滞納以前の滞納も、本件滞納同様に長期かつ多額の滞納といえるところ、これを支払ったのは被告自身ではなく被告の母であり、被告は、被告の母によるこの支払の翌月から長期かつ多額にわたる本件滞納を開始していることが認められ、…本件管理組合による被告所有自動車に対する強制競売手続も、被告の強い抵抗により、結果的に取下げで終了しており、その後も被告は、現在まで支払の意思を全く示していないうえ、管理費等の徴収に上述のとおりの手間と費用を要する状態となっていることが認められる。

[3の要件]…しかし、法59条に基づく競売請求は、法57条に基づく停止等の請求や法58条に基づく使用禁止請求等と異なり、違反区分所有者を区分所有関係から終局的に排除することを目的とするものであり、その者に与える不利益が大きいことからすれば、管理費等の未払について、「他の方法によっては障害を除去して共同生活の維持を図ることが困難であること」との要件を満たすのは、法7条1項前段の先取特権の実行等の他の民事上の法的方法では効を奏さず、かつ将来も支払の可能性がないか又は著しく低い場合に限定されると解される。
これを本件についてみるに、…本件管理組合が本件管理費等を回収するために先取特権の実行手続を取った場合には、被告の専有部分について他に優先する担保権等があって剰余価値がないというような事情もうかがわれないから、同手続によって本件滞納の解消に至るものと認められ、法7条1項前段の先取特権の実行等の方法では効を奏さない場合には当たらない。
…原告は、上記管理費等滞納の経緯等にかんがみれば、仮に被告が今回あるいは先取特権の実行手続中に、本件管理費等を弁済したとしても、被告が今後も管理費等を滞納する可能は高く、原告ないし本件管理組合が多大な手間と費用とを負担して再び同内容の手続を取らなければならない状態が繰り返され、本件管理費等の滞納が解消されることのみで共同生活上の障害が解消されるものではないと主張する。
確かに、本件管理組合は、以前、本件管理費等の徴収のため、自動車の強制競売手続を取ったにもかかわらず、支払を行うとの被告の約束により、同手続の取下げに至ったものであり、今後の被告からの管理費等の徴収においても同様の事態が生じる可能性は否定できない。また、上記自動車の強制競売手続について生じた費用のうち、執行補助者費用部分については、債務名義を取得できないまま終わっており、被告からの管理費等徴収に当たって回収の難しい費用が生じ得ることも認められる。
しかし、管理費等の徴収にかかる費用については、本件管理規約上管理費等の未払に関して訴訟を提起した場合の弁護士費用は、当該区分所有者の負担とされており、被告から回収する手立てがあるうえ、法7条1項前段の先取特権の実行手続においては、原則としてその費用を手続費用として同手続内で回収することが可能である。
また、本件管理組合が従前行った自動車の強制競売手続は、被告の支払約束により取下げに至っているものの、法59条に基づく競売請求が被告を区分所有関係から終局的に排除する手続であり、他の方法によってはこれを除去することが難しい場合である必要があるところ、本件においては法7条1項前段の先取特権の実行手続によって未払管理費等の滞納自体は解消され得る状況にあるのにもかかわらず、原則として行うべき同手続を一度も実行していないのであるから、管理費等徴収の手間や費用の問題についても同手続を実行していない現時点において、他の方法によってはこれを除去することが難しい場合に該当するとまではいい難い。原告は、同手続中に未払管理費等の支払が任意に行われて同手続が取り消され、その後も被告が任意に管理費等の支払を行わない可能性を指摘するところ、そのような場合であれば、原則として行うべき法7条1項前段の先取特権の実行手続を行ったのにもかかわらず、これが効を奏さない場合と考えることも可能であるから、この手続を実行していない現在の状況とは異なるものといえる。
…なお、原告は、被告が本件居室に居住しておらず法59条に基づく競売をしても被告に不利益は少ないと主張するが、被告が本件マンションに居住していない場合でも、被告にとって本件居室が必要でないとは認められないうえ、同競売が当該区分所有者の区分所有関係からの終局的排除を目的とすることに変わりはなく、このことは同競売を認める要件を緩和する根拠とはならないから、原告の主張は採用できない。

…以上によれば、本件において、原告には、法59条に基づく競売請求以外に本件管理費等を回収し、また被告の本件管理規約違反行為による障害を除去する方途がないことが明らかであるとはいえず、同条所定の上記要件を充足するとまで認めることはできない。

<東京地裁平成22年5月21日>

[1・2の要件]…被告は、現在まで、管理費等の一部(…合計183万4252円)を滞納しており、その滞納額や滞納期間に照らすと、この滞納は本件マンションの管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為に当たるといえるものの、その滞納額の本件マンション全体の管理費等における割合や、被告による管理費等の滞納によって本件マンションの区分所有者に生じた実害(本件マンションに必要な改修工事が実施できない状況にあることなど)を認めるに足りる的確な証拠はないのであって、本件管理組合が滞納管理費等の回収のために前訴判決及び強制執行に関して費やした手間…や本訴前に弁護士に支出した費用が約22万円に達すること…などを考慮しても、被告の上記滞納が本件マンションの管理上重大な支障となっており、本件マンションの区分所有者の共同生活上の障害が著しいものとまでは認め難い。

[3の要件]また、被告は、本訴提起後…には、原告訴訟代理人弁護士に対し、滞納管理費等を一括で支払うことを申し出しているのであって、現在まで支払が完了していないのは、原告及び本件管理組合の方で管理費等の受領を拒絶しているためであること…や、Bが、本訴における証人尋問において、今後は管理費等を支払う意向である旨証言していることに照らせば、競売請求以外に管理費等の滞納を解消し得る手段がないとも認められない。

…前記…のとおり、原告の指摘する被告らの行為については、いずれも本件マンションの管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為には当たり得るとしても、それらによる区分所有者の共同生活上の障害が著しいとも、競売以外の方法によってはその障害を除去して共用部分の維持を図ることが困難であるとも認めることはできず、原告による競売の請求は、区分所有法59条1項所定の要件を具備するものとは認められない。

手続的な要件

区分所有権・敷地利用権の競売について集会の決議をするには、あらかじめ区分所有者に対して弁明する機会を与える必要があります(区分所有法59条1項・2項・57条3項・58条2項・3項)。

この点、競売請求をする決議のための集会招集通知・弁明の機会付与の通知が到達しなかったり、受領すべき代表者が存在していない事情が区分所有者側によるもので、通知の送付時に区分所有者の破産手続が廃止されていたことなどから、実質的に弁明の機会を与える意味もなかったことを理由に、決議は有効を有効とした裁判例があります(前掲東京地裁平成21年7月15日)。

<東京地裁平成21年7月15日>

被告のもとに本件通知が到達されなかった可能性が否定できず、また、到達されたとしても、受領すべき代表者が存在していなかったとはいえ、これらの事情は、すべて被告側によるものであり、原告としては、被告から変更の届出があった本件宛先へ本件通知を送付したのであるから、原告にそれ以上の調査等を求めることは相当ではなく、原告は、区分所有法に基づく区分所有権等の競売請求する手続のうえで、区分所有者である被告に対してしなければならないことはすべてしたと評価するのが妥当である。
そして、本件通知の送付時に、被告について破産手続が廃止され、現在に至るまで、被告区分所有建物に関する管理費等が滞納され続けているという状況からして、被告に対し、実質的に弁明の機会を与えることの意味もなかったと言わざるを得ない。
よって、弁明の機会を与えるための手続に瑕疵があったと認めるべきでなく、本件決議は、何らの影響も受けないと解すべきである。

不動産競売申立

区分所有法59条1項に基づく競売の請求は、裁判所に区分所有権と敷地利用権の競売を認めてもらうためのもので、競売を認める判決に基づいて改めて裁判所に競売の申立てをすることになります。

競売によって区分所有権・敷地利用権が売却された後は、マンションの買主(新しい区分所有者)に対して滞納管理費を請求できます(区分所有法8条)。

滞納管理費のマンションの買主に対する請求については、こちらのページで説明します。

競売を認める判決に基づく競売の申立ては、判決が確定した日から6か月以内にする必要があります(区分所有法59条3項)。

区分所有権と敷地利用権が譲渡された場合

区分所有法59条1項に基づく競売を認める判決が言い渡され、判決の確定前に区分所有権と敷地利用権が譲渡された場合、譲受人に対してその判決に基づく競売の申立てはできないとした裁判例があります(最高裁平成23年10月11日)。

<最高裁平成23年10月11日>

建物の区分所有等に関する法律59条1項の競売の請求は、特定の区分所有者が、区分所有者の共同の利益に反する行為をし、又はその行為をするおそれがあることを原因として認められるものであるから、同項に基づく訴訟の口頭弁論終結後に被告であった区分所有者がその区分所有権及び敷地利用権を譲渡した場合に、その譲受人に対し同訴訟の判決に基づいて競売を申し立てることはできないと解すべきである。

なお、この判決では、競売を請求する裁判をしている間に被告が区分所有権と敷地利用権を第三者に譲渡した場合に関して以下のような補足意見があり、改めて別訴を提起する必要はなく、訴訟引受けを求めることができるとしています。

競売請求訴訟は、法廷意見が述べるとおり、特定の区分所有者が区分所有者の共同の利益に反する行為をし、又はその行為をするおそれがある(以下、かかる状態を「共同利益侵害状態」という。)ことを原因として認められるものであって、そこで審理の対象となるのは、当該区分所有者の上記のような属性である。
そうすると、同訴訟の事実審口頭弁論終結後に被告が区分所有権及び敷地利用権を譲渡した場合には、その譲受人が上記のような属性を有しているとは当然には言えない以上、被告に対する判決の効力が譲受人に及ぶと解することはできず、同判決に基づいて、譲受人を相手方として競売を申し立てることはできないというべきである。

ところで、競売請求訴訟係属中に、被告が区分所有権(及び敷地利用権)を第三者に譲渡した場合に、原告は当該譲受人に対して訴訟引受けを申し立てることができるか否かが問題となる(本件で、相手方が口頭弁論終結前に共有持分の譲渡を受けていた場合には、その点が争点となり得た。)。
競売請求訴訟が係属していることは、譲受人が僅かな調査をすれば容易に判明する事実であり(例えば、区分所有者の共同の利益に反する行為が、暴力団事務所としての使用等その使用態様であるならば、当該区分所有建物を見れば一見して明らかであり、また本件のごとく管理費の未払であるならば、それは当然に譲受人に承継される(同法6条)ものである。)、譲受人は訴訟を引き受けることによって不測の損害を被るおそれはない。
また、訴訟引受後に譲受人において区分所有者の共同利益侵害状態を解消させれば、競売請求棄却の判決を得ることができるのである。
他方、原告は、譲受人に訴訟を引き受けさせることにより、従前の訴訟の経過を利用することができ訴訟経済に資することになる。また、訴訟係属中に被告が区分所有権(及び敷地利用権)を譲渡することにより、競売請求を妨げるという被告側の濫用的な妨害行為を抑止することができる。
かかる点からすれば、競売請求訴訟提起後に、被告が当該区分所有権(及び敷地利用権)を譲渡した場合には、原告は、譲受人に対し訴訟引受けを求めることができるものというべきである。

配当が見込めない場合

配当が見込めない場合、競売の手続き自体をすることはできないとされていますが(民事執行法63条2項)、区分所有法59条1項の競売を認める判決に基づく競売の申立てについては、配当が見込めなくても競売の手続きをすることができ、担保権も消滅するとした裁判例があります(東京高裁平成16年5月20日)。

区分所有法59条に基づく競売と民事執行法63条との関係については、こちらのページで説明します。

<東京高裁平成16年5月20日>

民事執行法63条の規定の趣旨を踏まえても、…区分所有法59条の規定の趣旨にかんがみると、同条に基づく競売については、民事執行法63条1項の剰余を生ずる見込みがない場合であっても、競売手続を実施することができ、その場合も、競売手続の円滑な実施及びその後の売却不動産(建物の区分所有権)をめぐる権利関係の簡明化ないし安定化、ひいては買受人の地位の安定化の観点から、同法59条1項(いわゆる消除主義)が適用され、当該建物の区分所有権の上に存する担保権が売却によって消滅するものと解するのが相当である。