総会の決議事項

総会において、どのような事項について決議することができるのかについて説明します。

決議事項の制限

区分所有法37条1項は、集会においては、区分所有法35条の規定によりあらかじめ通知した事項についてのみ、決議をすることができる、としています。

標準管理規約(単棟型)47条9項も、総会においては、43条1項(総会を招集するには、少なくとも会議を開く日の2週間前(会議の目的が建替え決議であるときは2か月前)までに、会議の日時、場所及び目的を示して、組合員に通知を発しなければならない。)によりあらかじめ通知した事項についてのみ、決議することができる、としています。

「あらかじめ通知した事項」とは、区分所有法35条1項の「会議の目的たる事項」と35条5項の「議案の要領」のことをいいます。

「会議の目的たる事項」とは議題のことです。

議題とは、会議にかけて討議・決議するテーマのタイトルです。

例えば、「管理費値上げの件」「規約改正の件」「理事選任の件」などです。

また、「議案の要領」とは、決議内容についての原案を要約したものです。

例えば、「規約●条を…と改正する」などです。

「会議の目的たる事項」と「議案の要領」の通知があれば、集会でその内容を修正することはできます。

また、あらかじめ通知がない事項でも、集会で討議すること自体はできます。

「会議の目的たる事項」や「議案の要領」の通知がないにもかかわらず、決議がされた場合は、その決議は原則として無効となります(東京地裁昭和62年4月10日、東京高裁平成7年12月18日参照)。

<東京地裁昭和62年4月10日>

本件臨時総会の召集に際して、旧規約の廃止及び新規約の設定を議題とすることはあらかじめ通知がなく、議案の要領の通知もなかった。
…本件臨時総会の召集手続の瑕疵は、区分所有関係の基礎となるべき規約の廃止、設定という集会で決議すべき事項の中では最も重要な部類に属する議題に関するものであること、…新規約は、単に法に不適合の部分を改めるに留まらず、建物の用法に関して一章を置き、詳細な規定(その中には、本件ハイツを101号及び201号以外住居専用とする旨の規定もある。)を設けたこと…、被告が区分所有者を代理して各種保険(その中には個人賠償責任保険も含まれている。)を締結し、保険金を受領し、これを修復費用に充当することを後者が承認する旨の規定を置いたこと…、旧規約では認めていた借家人を代理人とする議決権行使を排除していること…など本件ハイツの管理に関し改正された法に適合させるため不可欠とはいえない事項についても規定を新設していることが認められること…、法は区分所有建物の管理につき集会中心主義をとり、重要な事項はすべて集会の決議によって定めることとし、とりわけ規約の設定、変更、廃止については区分所有者及び議決権の4分の3以上の多数の決議によることとする(法31条1項)とともに、あらかじめ通知することなく規約の設定、変更又は廃止を決議することは規約をもってしても定めることができないとしていること(法37条2項)、集会において決議すべき事項については、区分所有者全員の書面による合意があったときに限り、集会の決議があったものとみなされること(法45条1項)としていることに鑑みれば、前記召集手続の瑕疵はけっして軽微なものとはいえず、…右瑕疵を理由とする本件決議の無効を主張することができなくなるものと解することはできない
…以上によれば、本件臨時総会の召集手続には本件決議に関する限り瑕疵があるから、これに基づいてなされた本件決議は無効というべきであり、したがってまた、本件決議によって設定された新規約は集会の決議によって設定されたものということはできないから無効といわざるをえない

<東京高裁平成7年12月18日>

…本件決議…の決議事項については、議案の要領の通知に欠けるから、その決議には区分所有法35条5項所定の総会招集手続に違背した瑕疵があるといわざるを得ない。
そして、右議案の要領の通知を欠くという招集手続の瑕疵がある場合の決議の効力について検討するに、法が議案の要領を通知することとした趣旨は前示のとおりであるから、議案の要領の通知の欠缺は、組合員の適切な議決権行使を実質上困難ならしめるものというべきであって、これをもって軽微な瑕疵ということはできない。
とりわけ、本件決議…のうちの規約44条(議決権)の改正は、従来、最小区分所有単位を1票とし、その所有する専有面積比割合により議決権の票数を算定していたものを、所有戸数、所有専有面積のいかんにかかわらずすべて1組合員1票にするというもので、組合員の議決権の内容を大幅に変更し、複数の票数を有していた組合員に極めて大きな不利益を課すことになる制度改革であるから、事前に各組合員に右改正案の具体的内容を周知徹底させて議決権を行使する機会を与えるように特に配慮することが必要である。
しかし、本件においては、区分所有者は右通知において議決権条項の改正が審議され、決議されることは認識できたものの、その具体的内容を把握できなかったため、右のような重大な議決権内容の変更を伴う規約改正が行われることを事前に知ることができなかったものであり、その結果、58票を有していたS、24票を有していたN、2票を有していたYにおいては、その議案の重要性を認識することなく被控訴人に対し、…理事長に一任する旨の委任状を提出したこと、しかし、右決議まもなく右内容を控訴人から知らされて初めて決議内容の重大性を知って驚き、事前に知っていれば理事長に一任する旨の委任状を提出することはなかったとして、控訴人を通じて被控訴人に対し、委任を取り消す旨申し出ていたこと…が認められる。
そして、本件決議…の議決が成立するためには区分所有者及び議決権数の各4分の3以上の多数の賛成が必要とされるところ(区分所有法31条1項)、…右各組合員らが一任の委任状を提出せず、これらの議決権数が賛成票に算入されなければ、議決権数657票の4分の3である493以上の賛成票を集めることはできず、右決議は可決されなかったことが明らかである。
以上の事実を勘案すれば、本件決議…の決議については、重大な手続違反があり、これを無効と解するのが相当である。

決議事項の例外

規約に別段の定めをした場合

区分所有法37条2項は、区分所有法37条1項の規定は、この法律に集会の決議につき特別の定数が定められている事項を除いて、規約で別段の定めをすることを妨げない、としています。

したがって、規約において、「集会においては、あらかじめ通知した事項でなくても、決議をすることができる。」というような定めがあれば、あらかじめ通知した事項でなくても決議ができます。

もっとも、区分所有法において、「集会の決議につき特別の定数が定められている事項」については、規約に別段の定めをすることはできません。

「集会の決議につき特別の定数が定められている事項」としては、以下の事項があります。

  • 共用部分の変更(形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く、区分所有者17条1項)
  • 区分所有者の共有に属する敷地・附属施設の変更(区分所有法21条・17条1項)
  • 規約の設定・変更・廃止(区分所有者31条1項)
  • 管理組合法人の成立(区分所有法47条1項)
  • 管理組合法人の解散(区分所有法55条1項3号・2項)
  • 共同利益違背行為をした区分所有者に対する区分所有権の競売請求(区分所有法59条1項・2項・58条2項)
  • 共同利益違背行為をした占有者に対する引渡請求(区分所有法60条1項・2項・58条2項)
  • 大規模滅失の場合の共用部分の復旧(区分所有法61条5項)
  • 建替え(区分所有法62条1項)
  • 団地規約の定めについての各棟の承認(区分所有法68条1項2号)
  • 団地内の建物の建替え承認(区分所有法69条1項・7項)
  • 団地内の建物の一括建替え決議(区分所有法70条1項)

招集手続が省略された場合

集会は、区分所有者全員の同意があるときは、招集の手続を経ないで開くことができます(区分所有法36条)。

例えば、区分所有者の全員が集まっているその場で集会を開くことなどができます。

区分所有者全員の同意により開く集会においては、区分所有法37条1項・2項は適用されず(区分所有法37条3項)、区分所有者にあらかじめ通知された事項でなくても、決議をすることができます。

もっとも、欠席者がいる場合、欠席者に決議事項を通知しないまま欠席者を除外して決議をすることまではできないと考えられます。