管理者である理事長(標準管理規約(単棟型)40条2項)には、民法の委任に関する規定が準用されます(区分所有法28条)。
民法では、受任者は、委任者の求めがある場合、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならないとされています(民法645条)。
他方、区分所有法では、管理者である理事長は、集会において、毎年1回一定の時期に、その事務に関する報告をしなければならないとされています(区分所有法43条)。
そこで、各組合員が、理事長に対し、事務処理の状況の報告を求めることができるかが問題となります。
この点、管理者である理事長は、管理組合の総会において報告をすれば足り、個々の区分所有者の請求に対して直接報告する義務を負うものではないとした裁判例があります(東京地裁平成4年5月22日)。
したがって、各組合員は、理事長に対し、直接に事務処理の状況の報告を求めることはできないと考えられます。
そのため、各組合員が理事長に対して事務処理の状況の報告を求めるには、総会を招集し(区分所有法34条3項・4項)、理事長に対して総会の場での報告を求めることになると考えられます。
<東京地裁平成4年5月22日>
…区分所有法28条は、「この法律及び規約に定めるもののほか、管理者の権利義務は、委任に関する規定に従う。」と定め、民法645条は、受任者は委任者の請求あるときはいつでも委任事務処理の状況を報告し、委任終了の後は遅滞なくその顛末を報告することを要する旨定めている。
そこで、本件において管理者である理事長が個々の区分所有者の請求に対して直接その取扱う事務に関する報告をする義務を負うか否かにつき検討するに、本件においては、以下の理由により、管理者である理事長は、管理組合の総会において右の報告をすれば足り、個々の区分所有者の請求に対して直接報告する義務を負うものではないと解するのが相当である。
すなわち、区分所有法25条は、規約に別段の定めがない限り集会の普通決議により管理者を選任する旨を定めているところ、本件においても、管理者である理事長は、右25条及び管理規約の規定により、区分所有者の過半数が出席した総会で議決権…の過半数により選任された理事数名の中から、互選によって選出されたにすぎず、個々の区分所有者から直接管理者となることを委任されたものではないから、理事長が個々の区分所有者の受任者であるとみることはできない。
また、区分所有法43条は、管理者の取扱う事務の報告義務につき、「管理者は、集会において、毎年一回一定の時期に、その事務に関する報告をしなければならない」と規定し、更に同法34条1項2項は、管理者に集会を招集する権限を付与するとともに、少なくとも毎年一回集会を招集する義務を定めている。
したがって、区分所有法は、管理者の取扱う事務についての報告は、右の集会においてされることを予定しているというべきである。
そして、管理者が右の報告を怠るときは、区分所有者の5分の1以上で議決権の5分の1以上の要件を備えた者が管理者に対し集会を招集するよう明求する権利を持ち、それでも集会か招集されないときは、右請求をした区分所有者が集会を招集することができるとされているから(区分所有法34条3、4項)、管理者か集会の招集を怠ることで報告義務を回避する場合が仮にあったとしても、区分所有者が集会で報告を受けるための方途は講ぜられているということができる。
したがって、前記のとおり、管理者である理事長と個々の区分所有者との間に個別の委任契約か認められない本件においては、管理者である理事長がその取扱う事務につき個々の区分所有者の請求に対し、区分所有法28条、民法645条により直接報告をする義務を負担すべきものとはいえない。